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第38話:危険
汗が頬を伝って首へと流れた。
窓の向こうから柔い月の光が差し込み、影を落とす警官が笑うとギラリと八重歯が覗く。
“俺がしてきた事”
警官のヒヤリとした左手がゆっくりと服の中に入ってきて、腹を撫でながら首に到達した時、その言葉の意味を理解した。
「っえ…」
首から唇へと滑らかな手の動き。
顔を包み込むように親指で唇についたピアスを、中指で右耳の耳たぶを器用に撫でられる。
「これ、痛くないの?」
口についたピアスを撫でながら警官はそう聞いてきた。
「い、痛くない…です」
「ふぅん」
腹にガッツリ入れ墨入れてるくせにそんな事聞くなよと言いたくなった。
静かに返事をした警官はやがてパッとした表情で視線を合わせてくる。
「ねぇ、キスしたらどんな感じ?」
「ふえっ⁉︎」
「キス。どう?してもいい?」
「え…いや…」
男同士なんてもう懲り懲りだ。そんなの無理に決まってる。
「………何、嫌なの?」
なんて言えるわけねぇ‼︎
「っい、いやそう言う事じゃなくてっ…び、びっくりして!全然いいですよっ」
瞬時に親指を喉仏に当て力を込められてしまった。
しゅんとした声でやってる事マジで怖すぎる。
「だよねっ」
なんなのこの人…こええよ。
けどまぁ…キスくらい…なら……
「っ……」
目を閉じれば女と変わらない。感触も、匂いも…
「目閉じちゃってかわいねぇ」
「んっ‼︎」
左手で頭を支えられ、唇に柔らかい感触がする。
当たり前だけど俺の体はガチガチで、ぎゅっと唇をつぐんだ。
「うーん。ちょっとヒヤッとする」
「っ…、ふ…」
「怖いの?」
「…っ…」
唇が離れた後も俺は目を開けず唇も硬く閉じていた。
無様にプルプルと震えてるのが自分でもわかる。
「んぐっ」
固まっていると、親指で下唇をこじ開けられ目を見開いた。
その瞬間、警官が舌を出したのが見えたかと思えば、ぬるりとその舌が俺のピアスを舐めとると口の中へ入ってくる。
「んぅっ⁉︎…っは、…うっ」
体が逃げようと後ろに下がるが、警官の右手に腰を掴まれ逃げれない。
舌が上顎をなぞり、俺の舌を捕まえて吸われる。
警官を押し除けようとしたが左手に首を掴まれていて俺が抵抗すると首を絞められ体の力が抜ける。
「ゔ…んっ、はっ、ぁ、はっ…」
息つく間も無いキス。首の動脈を絞められながらこんな激しいキス。
今までこんな事した事ない。
苦しい。
苦しい。
息がしたい。
「…はっ…んぅ…」
苦しいけど、気持ちいい。
頭がぼーっとする。
「ん、…っ、ふ…ぁ」
やばい、これ
落ちる
目が閉じかけた時、ふっと首を絞めていた警官の手が解かれた。
「はぁっ、はぁっ」
同時に唇も離れ、大きく息を吸い込むと頭の中がグラグラと揺れた。
「どう?気持ちよかった?」
「はぁっ…っ、はぁ…っゲホ…」
咳き込む俺を見下ろして妖艶に微笑む。
ぼたぼたと口から唾液が溢れる。
脳に酸素が回ると思わず俺は警官を睨んでしまった。
「反抗的な目は好きだよ」
「っ‼︎」
髪を掴まれ、警官は顔を近づけた。
「これが僕からのご褒美」
「…ふざけ…」
「ああ。やっと本当の君を出してくれたね」
「ぐあっ」
後ろに強く髪を引っ張られ、反対の手で太ももを撫でられる。
「ちょっと寂しかったんだ。あの夜から君が僕に怯えっぱなしだったし」
「っ……」
「抵抗してもいいんだよ。ちゃんと僕が躾けてあげるから」
柔らかい声音に、鋭い眼光。
やっぱり、この警官は危険だ。
「君が僕からのご褒美を喜んで受け入れるまで」
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