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第37話:ご褒美?
「ご馳走さまでしたぁ〜」
パタンと警官が手を合わせる。
風呂から出て警官が誰かと電話を10分ほどしていた内に米が炊けて、小さいローテーブルを囲みふたりで俺が作った飯を食った。
警官は心底嬉しそうに「美味しい」と何度も口にしながら野菜炒めを頬張っていて、たまに俺の方を見ては微笑んだ。
食べ終わった後もニコニコと頬杖を付きながらこっちを見てくるもんだから、たまらなくなって俺は食器をまとめて流し台に持って行く。
「洗い物もやってくれるの?僕やろうか?」
「や…俺やるんでいいっすよ」
腕まくりをしてスポンジを手に取ると、後ろから俺の肩に顎を乗せる警官の髪からふわりとシャンプーの香りがする。
「光(こう)君は今までの女性のとこにいた時もこういうの全部やってたの?」
「…まぁ。大体は」
「ふぅん」
警官はそう言うとローテーブルがある窓際へと戻って行った。
食器を大方洗い終わり、警官が買ってきたカップ麺を棚に仕舞う事にする。
冷蔵庫にはちゃんと食材あったのに、この家に来て警官が料理してるとこなんて見た事ない。さっき飯食ってる時に「こばさんに野菜とお肉お裾分けしてもらってたけど時間なくて最近料理できてなかったんだ」とか言ってたから、自炊はしてる方…なんだろうか。
そうならいいけど、普段カップ麺ばっかじゃ体壊すぞ…。
「っし」
大量のカップ麺を片付け、する事が無くなった。
パタンと棚の扉を閉めて少し考える。する事がない、のは非常に気まずい。
あの警官を前に一体何をすればいいのか。
「光君はさ」
「え?」
立ちつくしていると、背後から警官に呼ばれ振り向く。
「これまでの“飼い主”さんからのご褒美は何をもらってたの?」
これまた机に頬杖を付きながら、俺を見つめる警官。
ご褒美…って…報酬って意味だよな?
そんなん…
「金…ですかね」
「お金ねぇ」
ヒモなんてそんなもんだろ。っと無意識に目で訴えてしまった。
これじゃ俺が金寄越せって言ってるみたいなもんじゃねぇか。
冗談じゃない。そんな事言えるわけないだろ。舐めた事言ったらどんな目に遭うか…
俺はとにかく何事もなく、この警官の機嫌を損ねないように過ごせれればそれでいい。
「ま、まぁ俺はお金とかどうでもよくてっ、どっちかって言うともらって嬉しかったのは愛?とかですかね?擬似恋愛と言うか、養ってもらうのは俺ですけど俺もその分愛を返すみたいな?ハハ…」
「………」
じっと俺を見つめる警官の目に全て見透かされてる気がする。
沈黙が流れ、どうすればいいかわからず俺は下を向いた。
「光、こっちおいで」
名前を呼ばれびくりとしてしまう。
ワントーン下がった警官の声。
さっきまで君付けだったのに急に呼び捨てされた。そんな些細な変化でさえこの後何が起こるかわからないという恐怖で不安になる。
「っ…」
見上げると、警官は手招きをする。
あの夜の恐怖が体に染み付いて、警官の指示に従うように足が動く。
「座って」
「……」
警官の前で正座をすると、横髪を撫でられた。
「僕もご褒美あげたいんだけど」
そう言われ、髪を撫でていた警官の指が俺の耳に付いたピアスへと到達する。
耳たぶに付いたピアスを掴まれ、親指ですりすりと撫でられる。
「お、俺は別に何も…」
何も要らないと言うつもりで警官の方へ視線を向けると、警官は目を細めて笑った。
「大丈夫。君が今までしてきた事と同じ事をするだけだよ」
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