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第36話:変なもの(笹)
「あ〜〜〜…暇…」
あのプレハブに拉致られ、なんやかんやでまんまと警官に飼われる事になった俺は、今商店街の近くにあるボロアパートの一室に監禁されている。
監禁、というか…「逃げたらわかってるよね?」なんて殺意を込めて言われたら逃げる気も失ってしまった。
助けを呼ぼうとも考えたが、あの警官がどこの誰と繋がってるかもわからねぇし、警察の中にもまだあの警官みたいなやつがいるかもしれないと思うと通報もできない。
ここはあの警官が住んでるアパートらしい。
あの得体の知れない警官はどっかの大きい組織の幹部的ポジションにいるかと思っていたからてっきりタワマンとか高級マンションとかに住んでると思ったのにまさかのボロアパートって…
部屋は殺風景で必要最低限に抑えられた家具と家電があるくらい。
窓際にあるローテーブルの上には折り紙で作られた鶴と、これまた紙で折った小さい箱があったが、箱には何も入ってない。
家にある変なものとしたらそれくらい。
「はぁ…」
6帖一間。俺は今部屋の真ん中で大の字で寝転がっている。
シミだらけの天井を見上げ考えた。
警官が言った「俺を飼う」という意味がわからない。
あいつは毎日朝早く出かけ、帰ってくる時間はバラバラで行動の予測もできない。
昨日は帰って来なかった。あいつに渡された俺と連絡を取るためだとか言うガラケー。
今時ガラケーって……
ちなみに俺のスマホは没収された。
昨日みたいに警官が帰ってこない日はメールが来る。
内容は俺が今何をしているのかとか、必要なものはないかとか…そんな感じ。
食料とか服とかそんなんを頼んだらあの警官は帰ってくる時に買ってきてくれる。
ただ、流石に家にいるだけじゃ暇だしバイトもあるし……逃げないから家から出てもいいかメールで聞いてみたけど、それはダメだった。
俺に何かさせようとしてるみたいだったけど、結局まだ何も言われてない。
「暇だし…腹減った…」
携帯で時間を見ると昼の12時を回っている。
買ってきてくれたカップ麺や弁当はもう無いし、警官からの連絡もない。
立ち上がり、冷蔵庫を開けて中を覗いてみる。
中には野菜と、商店街の精肉店で購入したであろう豚バラが入っている。
精米もあるし炊飯器もある。
ゴクっと喉が鳴った。
「まぁ…別にいいよな」
癪だけどあの警官の分も作っとけば勝手に食材を使ったと知られた時に言い逃れができる。
ヒモ歴があるおかげで料理に、家事全般はできるし、勝手に作って食べてても別にいいよな。
「なんか懐かしいなこの肉屋」
豚バラを包んでいた白い紙に印字された精肉店の名前。
孤児院時代に院を抜け出して街をふらついていた事がある。
その時この商店街を通った時に、ある駄菓子屋のおじさんと仲良くなった事があった。
俺が10くらいの時だったっけな。俺、駄菓子屋なんか初めてだったから、物珍しさに見入ってしまって、おじさんはそんな俺にタダでお菓子をくれた。
親切な人で、商店街の事とか、肉ならこの精肉店の肉が一番だとか色々教えてくれたな。
中学に上がるまでは何回かこの商店街に通ってたけど、それっきりだったし…
あのおじさん元気にしてっかな。
トントントン、と包丁で野菜を刻んで、フライパンで豚バラを炒めて塩胡椒。そして肉に火が通ると野菜を投入する。
ジュワっといい香りが部屋に広がる。
米も炊飯セットしたし、あとはそうだな。汁物ありゃ完璧なんだけど…
「ただいまぁ〜」
インスタントでもいいかとキッチン棚を漁っていると、玄関のドアがガチャリと開く音がして心臓が跳ね上がった。
「え、何このいいにおい」
制服姿で手にカップ麺が入った袋を持った警官が顔を覗かせる。
「あっ…っと、すみません。腹減って」
「あーごめんね、忙しくて連絡できなかったや。一応もう切れたかと思って買ってきたんだけど…」
そう言って俺にカップ麺が入った袋を見せる警官。
「でもいいや。せっかくだし光君が作ったやつ僕も食べたいな」
「……あ、はい。一応そのつもりで作ったんで…」
「ええ〜⁉︎何それ嬉しい」
「っ…‼︎」
警官はそう言ってふわりと笑い俺に抱き付く。
あのプレハブの時との温度差があまりにも激しくて体が一気に強張る。
「優しいね。それに料理できるなんて偉い偉い」
抱き付いたまま頭を撫でられ、戸惑う俺。
「じゃあ僕お風呂入ってくるから」
「……うす」
警官のアパートに来てからと言うものの、俺自身に何かされたわけでもない。
ただ、あの時警官が言ったように「大事にする」という言葉通り、俺に対する警官の態度が優しくて、そのギャップに頭が混乱する。
「いい子で待っててね」
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