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第8話 《終わりの始まり》
小高い丘にのぼり振り返ると、夕闇にすべてをゆだねて横たわるあやしく美しい都があった。複雑で美麗な曲線を描いて林立する塔の中心に、王城が聳えたっていた。
「綺麗ですね」
アスランが僕の視線の行方にそう、ひくく呟いて口にした。
「闇王国の落日、覚えておかれるといい」
多くの詩にうたわれた壮麗の都。神話の時代から、延々とこの闇王国の都でありつづけた美しい街の姿を眼に焼きつける。
爛漫の春になればもっと美しかっただろうに……。
《空の御座》の預言どおり、僕が再びここに戻って来る日はないのかもしれない。
そう考えると寂しいけれど、不思議な安堵もあった。
「私の為でなく、あなたはあなた自身とその臣民の為にいつかここにお戻りください」
「アスラン」
「今でなくていいのです。けれどあなたは闇王家の王におなりなさい。誰よりも力強く賢明で、慈悲に溢れ、美しく偉大な、魔物どもを従える王に。大魔道師エリア・バアルを超える魔道王に」
それは彼がもう何年も前に僕にいった言葉だ。僕はそれをおぼえていた。彼も、そのことを憶えていた。
互いの紫と青のひとみが重なった。
何か、言おうとしたけれど。
僕はなにも言えずにただ頷いた。
アスランの顔になんともいえない笑みがうかぶ。
僕はそれを、ずっとおぼえておこうと思った。
王国歴三〇四四年春、
僕とアスランは都を出立し、
西へと進みだした。
それが結果的に、《空の御座》へと近づき、
互いを分かつものだとは知らずに。
終わりの始まり
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