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第1話

 今宵はハロウィンだ。 「だけど今年も何もなかった」  ハロウィンパーティーから抜け出た帰り道、ロイドはそう呟いた。  外では毎年恒例のハロウィンのパレードが催されていて、様々に仮装した連中が道を練り歩いている。  この数年、親しい友人らは皆仕事や家庭で多忙となり、ハロウィンパーティーに呼ばれることも少なくなっていた。  そんななかでなぜか自分に声がかかり、久しぶりのパーティーだと思って参加してみたものの、すべてが期待外れで、これほど表面的で、退屈なパーティーがあるとは知らなかった。  皆が楽しそうに談笑する中、ロイドはパーティーにうんざりし、誰にも伝えずに中座してその場を去った。  参加者に親しい者はおらず、ただその場を取り繕うだけの時間が苦痛だった。  自分のことを詳しく知る者も、興味を持つ者もいなかった。  俺だってそうだ。周囲の奴らに何の興味も持てなかった。  冴えないゲイ。それが俺だ。  しかも無職で、社会的な地位もなければ、心通わすパートナーもおらず社会の底辺で生きるうらぶれた男。  すぐ横を通り過ぎていくハロウィンのパレードも、どこか遠くの世界のことのようだった。  10月31日、ハロウィン。  死者がこの世界にやってきて、生者と交流し時に惑わすと言い伝えられる日。  そのため同じ悪霊であると示すために仮装し、死者の世界に連れていかれないようにするのだと、幼い頃に親代わりだった親戚の家で耳にしたことがある。  馬鹿げた話だ。  悪霊に連れ去られるなんて、それどころか死んだ人間が蘇るなんてありえないし、死んだ者が行く世界なんてもっとおかしな話だ。それを確かめた者がいないのであれば、それはつまり空想の話ということだ。  ロイドは横を歩く賑やかなパレードから離れて、近くのコンビニに入って酒を買った。  屋外での飲酒はこの一帯ではルール違反だが、そんな決まりなど、ロイドにはあってないようなものだった。  店から出たところの道を少し歩いて、人気のない路地裏に回りこむ。誰か先客がいたら面倒だと思ったが、幸いにもそこに人影はなかった。  今日ばかりは、こういうところでたむろするような奴らも、楽しく仲間とハッピーハロウィンかと思うと、もともとささくれ立っていた心は、さらにとげとげしくなった。  ロイドは舌打ちとともに、手もとの缶ビールのプルダウンを開けて酒を飲む。  ふうと息を長く吐いて、路地裏の左右に立つビルの外壁にその体を預けた。  これが俺のささやかなハロウィンパーティーだ。  大して親しくもない連中とその場しのぎの作り笑いを浮かべ、徒労感を募らせるようなパーティーより、ひとりでこうして気ままに過ごすこのパーティーの方が、よっぽど気が安らぐ。  コツンと頭を後ろの壁に預け、すっかり暗くなった空を見上げたとき、 「そこで何をしているんだ」  唐突に近くで何者かの声があがった。

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