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第2話
素早くその方向へロイドが首を巡らすと、そこに、青年が立っていた。
暗がりで、しかも逆光になっていてよく分からないが、痩身の男だった。
「何をしているかって? 見ても分かんねえのなら、さっさとそこから消えることだな」
「ハロウィンパーティーかい?」
この一色触発といった緊張感の中、青年の意外な切り返しに、ロイドは思わず吹き出して笑った。
「ああ、そうだ。ひとりでハロウィンパーティーの真っ最中だ」
「それなら、そのパーティーに、僕も混ぜてくれないか」
願ってもない申し出だった。
「いいぜ」
とロイドは片方の口角を上げ、寄りかかっていたビルの外壁から上半身を浮かせた。
まともに向き合ってその青年を見れば、暗がりであってもその青年が自分と同じくらいの年だと分かった。
それ以上にロイドの気を引いたのは、青年の相貌だった。目鼻立ちが整っていて、ほとんどのゲイなら彼を拒まない顔つきだ。
ロイドも一瞬で、悪くないと思った。
俯き加減でにやりと笑って、ロイドは
「パーティーの酒、買ってやるよ」
と青年を連れて路地を出た。
コンビニから出て、明かりのあるところで見ると、やはり彼はきれいな顔立ちをしていた。
緑色の瞳に、明るめの茶色の髪は、柔らかいのかところどころで巻き毛となっている。肌は陶器のように白く滑らかで、頬には朱が差していた。
青年に缶ビールを渡して、ロイドは彼を公園に誘った。
「俺はロイド。あんた、名前は」
「サディアスというんだ」
「ふうん」
町のパレードはとっくに終わり、辺りの家々からは楽しげな談笑の声が漏れ聞こえてくる。
この日にこいつもひとりでいるなら、どうせ自分と同じような境遇だろう。
サディアスが同じくひとりでいる自分に声をかけた理由を、ロイドはあえて尋ねようとはしなかった。
どうせ今晩だけの付き合いだ。たとえこの男にあれこれ尋ねても、しょせんすぐに忘れる情報だと、ロイドは缶ビールをあおりながら考えていた。
特に熱心に話すことはなく、単語を交わしていると近くの公園に着いた。
いつも日中は、親子や学校帰りの子供たちで賑わうこの公園も、いまはがらんと静まり返って、公園を照らす街灯の明かりだけが降り注いでいた。
「誰もいないな」
「貸し切りのパーティー会場だね」
そのサディアスの言葉に返答はしなかった。端 からロイドは、ここでハロウィンパーティーをしようなどとは考えていなかったからだ。
ここなら、物陰に隠れなくても、あの街灯の明かりを避ければ、どこでもこいつとヤれる、そう考えていた。
だが万一誰かが通り過ぎたときが面倒だと、ロイドは公園を見回した。
公園の遊具が通り沿いの右側に点在しているが、左側は茂みとなっており、林の中を散策できるよう遊歩道が設えてあった。
ロイドはサディアスの手を取ると、その遊歩道の茂みの中へと連れこんだ。
「ロイド……?」
戸惑う声は聞こえていたがそれには答えず、ロイドは持っていた缶ビールを最後に飲み干して缶を投げ捨て、サディアスの背後からその身体を抱きしめた。
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