2 / 15

第2話

 素早くその方向へロイドが首を巡らすと、そこに、青年が立っていた。    暗がりで、しかも逆光になっていてよく分からないが、痩身の男だった。   「何をしているかって? 見ても分かんねえのなら、さっさとそこから消えることだな」 「ハロウィンパーティーかい?」  この一色触発といった緊張感の中、青年の意外な切り返しに、ロイドは思わず吹き出して笑った。 「ああ、そうだ。ひとりでハロウィンパーティーの真っ最中だ」 「それなら、そのパーティーに、僕も混ぜてくれないか」  願ってもない申し出だった。 「いいぜ」  とロイドは片方の口角を上げ、寄りかかっていたビルの外壁から上半身を浮かせた。  まともに向き合ってその青年を見れば、暗がりであってもその青年が自分と同じくらいの年だと分かった。  それ以上にロイドの気を引いたのは、青年の相貌だった。目鼻立ちが整っていて、ほとんどのゲイなら彼を拒まない顔つきだ。  ロイドも一瞬で、悪くないと思った。  俯き加減でにやりと笑って、ロイドは 「パーティーの酒、買ってやるよ」  と青年を連れて路地を出た。  コンビニから出て、明かりのあるところで見ると、やはり彼はきれいな顔立ちをしていた。  緑色の瞳に、明るめの茶色の髪は、柔らかいのかところどころで巻き毛となっている。肌は陶器のように白く滑らかで、頬には朱が差していた。  青年に缶ビールを渡して、ロイドは彼を公園に誘った。 「俺はロイド。あんた、名前は」 「サディアスというんだ」 「ふうん」  町のパレードはとっくに終わり、辺りの家々からは楽しげな談笑の声が漏れ聞こえてくる。  この日にこいつもひとりでいるなら、どうせ自分と同じような境遇だろう。  サディアスが同じくひとりでいる自分に声をかけた理由を、ロイドはあえて尋ねようとはしなかった。  どうせ今晩だけの付き合いだ。たとえこの男にあれこれ尋ねても、しょせんすぐに忘れる情報だと、ロイドは缶ビールをあおりながら考えていた。  特に熱心に話すことはなく、単語を交わしていると近くの公園に着いた。  いつも日中は、親子や学校帰りの子供たちで賑わうこの公園も、いまはがらんと静まり返って、公園を照らす街灯の明かりだけが降り注いでいた。 「誰もいないな」 「貸し切りのパーティー会場だね」  そのサディアスの言葉に返答はしなかった。(はな)からロイドは、ここでハロウィンパーティーをしようなどとは考えていなかったからだ。  ここなら、物陰に隠れなくても、あの街灯の明かりを避ければ、どこでもこいつとヤれる、そう考えていた。  だが万一誰かが通り過ぎたときが面倒だと、ロイドは公園を見回した。  公園の遊具が通り沿いの右側に点在しているが、左側は茂みとなっており、林の中を散策できるよう遊歩道が設えてあった。  ロイドはサディアスの手を取ると、その遊歩道の茂みの中へと連れこんだ。 「ロイド……?」  戸惑う声は聞こえていたがそれには答えず、ロイドは持っていた缶ビールを最後に飲み干して缶を投げ捨て、サディアスの背後からその身体を抱きしめた。

ともだちにシェアしよう!