3 / 15
第3話
「パーティーの余興だ」
耳元で低くそう伝えるロイドの息は、すでに熱くなっていた。
サディアスを背後から抱きしめたとき、さすがに驚いたように彼は身体を硬直させたが、その胸や腰をロイドがまさぐりるように触っても、特に嫌がるような気配は見せなかった。
これは、いけるか――?
ロイドはサディアスと向き合い、その顎をあげさせた。ちょうど唇が触れるというとき、
「頼みがあるんだ」
そのサディアスの言葉に、ロイドの動きは止まった。
「頼み?」
この期に及んでか。
ロイドは眉間に皺を寄せて溜息を吐き、面倒だと言わんばかりに見下ろした。
だがそんな冷淡な態度にも、サディアスは真剣な表情を崩さず、真っ直ぐロイドを見上げていた。
「そうだ。僕のために、このあと祈ってくれないか」
「……は?」
祈る? 耳を疑った。
何を言い出すんだ、こいつは。
怪訝な顔つきだったロイドは、しだいに蔑むように片方の口角を上げた。
「……祈る?」
返す言葉がなかった。
ミサどころか教会にだって行ったことのない自分がか。
「そうだ。僕のために、祈ってほしいんだ。……その、明後日も――」
明後日? それに――
「……祈るって、何をだ」
ロイドがやっとそう返すと、サディアスの返答には間があった。
サディアスの顔は、考えるようにも戸惑うようにも見える。
「……僕の、幸せを」
おまえの幸せを、祈る?
サディアスのその答えが、余計にロイドを混乱させた。
さっき会ったばかりの、まったく何も知らない赤の他人の幸せを? それどころか、俺自身の幸せも分からないっていうのにか。
急に目の前のこいつが何を言いたいのか、理解することすら億劫になった。
「やめだやめだ。俺はおまえとヤるつもりでここに連れてきたんだ。こんなわけの分からねえ奴なら興醒めだ」
「ロイド……」
サディアスの引き留める声を背中に聞いたが振り返らず、彼を残したままロイドはその場を去った。
ロイドは公園を離れ夜道を歩きながらサディアスを思い出し、せっかくきれいな顔をしていたのにと悔やむ一方で、あいつが一人でいる理由が分かったと嘲りの笑みを浮かべた。
だがそれは自分も同じだとすぐに気がつくと、ロイドは舌打ちした。
別にそれの何が悪い。
しかも今パーティーを楽しんでいる奴らだって、どうせ今日のパーティーが終われば、多かれ少なかれ孤独なものだ。
そう自分に言い聞かせるも、一度自覚したそのもの寂しさや不安感は、なかなか消え去ることはなかった。
そんな自分に苛立ち、そしてこのどうにもならない現状が気に入らなくて、ロイドは道端に転がった石を思いきり蹴飛ばし、夜の街を歩いていった。
ともだちにシェアしよう!