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第3話

「パーティーの余興だ」  耳元で低くそう伝えるロイドの息は、すでに熱くなっていた。  サディアスを背後から抱きしめたとき、さすがに驚いたように彼は身体を硬直させたが、その胸や腰をロイドがまさぐりるように触っても、特に嫌がるような気配は見せなかった。  これは、いけるか――?  ロイドはサディアスと向き合い、その顎をあげさせた。ちょうど唇が触れるというとき、 「頼みがあるんだ」  そのサディアスの言葉に、ロイドの動きは止まった。 「頼み?」  この期に及んでか。  ロイドは眉間に皺を寄せて溜息を吐き、面倒だと言わんばかりに見下ろした。  だがそんな冷淡な態度にも、サディアスは真剣な表情を崩さず、真っ直ぐロイドを見上げていた。 「そうだ。僕のために、このあと祈ってくれないか」 「……は?」  祈る? 耳を疑った。  何を言い出すんだ、こいつは。  怪訝な顔つきだったロイドは、しだいに蔑むように片方の口角を上げた。 「……祈る?」  返す言葉がなかった。  ミサどころか教会にだって行ったことのない自分がか。 「そうだ。僕のために、祈ってほしいんだ。……その、明後日も――」  明後日? それに―― 「……祈るって、何をだ」  ロイドがやっとそう返すと、サディアスの返答には間があった。  サディアスの顔は、考えるようにも戸惑うようにも見える。 「……僕の、幸せを」    おまえの幸せを、祈る?  サディアスのその答えが、余計にロイドを混乱させた。  さっき会ったばかりの、まったく何も知らない赤の他人の幸せを? それどころか、俺自身の幸せも分からないっていうのにか。  急に目の前のこいつが何を言いたいのか、理解することすら億劫になった。 「やめだやめだ。俺はおまえとヤるつもりでここに連れてきたんだ。こんなわけの分からねえ奴なら興醒めだ」 「ロイド……」  サディアスの引き留める声を背中に聞いたが振り返らず、彼を残したままロイドはその場を去った。  ロイドは公園を離れ夜道を歩きながらサディアスを思い出し、せっかくきれいな顔をしていたのにと悔やむ一方で、あいつが一人でいる理由が分かったと嘲りの笑みを浮かべた。  だがそれは自分も同じだとすぐに気がつくと、ロイドは舌打ちした。  別にそれの何が悪い。  しかも今パーティーを楽しんでいる奴らだって、どうせ今日のパーティーが終われば、多かれ少なかれ孤独なものだ。  そう自分に言い聞かせるも、一度自覚したそのもの寂しさや不安感は、なかなか消え去ることはなかった。  そんな自分に苛立ち、そしてこのどうにもならない現状が気に入らなくて、ロイドは道端に転がった石を思いきり蹴飛ばし、夜の街を歩いていった。

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