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第4話
ある建物の横を通り過ぎようとしたところで、声をかけられた。
「もし、そこのお兄さん」
今日はやけに呼び止められる日だなと思って声の方を向くと、聖職者の格好をした中年の男が扉の前でロイドを見ていた。
ロイドが視線を巡らせると、呼び止めた男が立つここは教会の建物だと知った。
「パーティーの帰りですか。教会も、明日に備えて準備をしている最中なんです。寄って行かれますか」
「は? なんで俺が――」
藪から棒だ。
「このあと何か予定でも?」
もう夜は更け、誰かと約束があるわけでもない自分に、今晩の予定なんかあるはずがなかった。まして無職の自分だ。明日の予定だってなにひとつ決まっていない。
答えないロイドに、聖職者の男は右の掌で手招き、左手では教会の扉を押し開いていた。
強硬に反発して帰宅するような理由もないし、どうせ町ではまだお祝いムードが続いている。本来ならばサディアスと、ハロウィンパーティー後の余興を楽しんでいるはずだった。だがそれも白けてしまい、この浮いた時間つぶしになればと、ロイドは教会の扉に向かった。
足を踏み入れた途端、そこはさきほどまでの外の空気とは一線を画していた。
前方や壁のいたるところに置かれた燭台の蝋燭が、ぼんやりと内部を照らし、厳粛な空気が静寂とともに教会を包んでいる。木材を主として作られたこの教会は、落ち着いた色合いで統一され、その色調も荘厳さを助けていた。
古ぼけた木材と暖炉の煤けた香りを鼻腔に感じながら、ロイドは前を行く聖職者姿の男のあとについて、教会の前方部の内陣へと案内される。
内陣には神父らが説教を行う際に使う演台のような講壇があり、その後ろの祭壇には、ひと際大きく太い蝋燭に明かりが灯されていた。
「明日は諸聖人の日です。その祈りのために、準備を進めているのですよ」
聖職者の男に連れられて、教会の内陣横の部屋へと連れていかれる。
その一室には、白い布が被せられた6人がけのテーブルが置かれていた。
「さあお座りなさい。簡単なものならお出しできます」
手前の椅子を両手で後ろに引いた聖職者の男を、ロイドは斜に構えてぎろりと睨みつけた。
「どういうことだ。腹が減っているなんて、言った覚えはねえぞ」
腕組みをしたままのロイドをその場に置いて、聖職者の男はこの部屋のさらに奥の部屋に行き、パンと皿を持ってきた。
「パーティーの帰りですか」
二人分の食事を並べながら、淡々と尋ねてくる。
「あんたには関係ないことだ」
「それもそうだ」
何でもないように聖職者の男はそう言って、再び奥の間に消えた。
そして湯気が立つスープを運んで戻り、ロイドが立つ前の席と奥側の席に、スープの皿を静かに置いた。
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