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第5話

「食べないのですか。私はお腹が空いてますから、あなたも一緒にいかがですか」  警戒の構えを崩さないロイドをよそに、聖職者の男は席に座って祈りを唱え、パンに手をつけている。  ロイドは食事を前に腹の中が空だと気がついて、そう言えば今日はアルコールだけで夕食はまだだと思った。  この目の前で食事を始めた男の真意は掴めなかったが、聖職者だし、まさか今日会ったばかりの見ず知らずの自分に毒を盛るようなことはないだろう。  そして何より、空腹の今は、この目の前の質素な食事でさえも、美味しそうに見えた。  ここで引き返して帰ったって、どうせほとんど金はねえんだ。  ロイドはぎこちない様子で、木製の椅子におずおずと腰を下ろした。  目の前の聖職者の男を気にしながら、ゆっくりとパンを口に運ぶ。  (ちまた)で売っているようなバターや砂糖がたっぷり入った味ではないが、質素ながら噛むほどに小麦の味が口に広がる奥深い味だった。  しばらく食べたあと、ロイドは顔を上げて、目の前の聖職者の男を見つめた。 「……なぜ俺に、この食事を与えようと思ったんだ」  聖職者の男は、意外そうな顔をした。 「私がちょうど食事をするところに、あなたが通りがかったのです。食事はひとりでするよりも、誰かと一緒にとる方が、よほど美味しく感じられます」  この時間に食べるのは滅多にないことで、本来はもっと早い時間にとっているのだと男は言う。 「明日は諸聖人の日で、今日は遅くまでその準備にかかってしまいました」 「諸聖人の日?」 「これまで教えのために命を落とした有名無名に関わらず、すべての聖人に思いをめぐらし祈る日です。明日はこの教会も人が訪れて賑やかになる。あなたも来てみてはいかがですか」  思いがけない誘いに驚きを浮かべるロイドに、聖職者の男は優しく微笑んだ。 「そんなもの、行くかよ……」  日曜日のミサにだってこれまで出席したこともない自分だ。そんな自分が、通りすがりの小さな教会に顔を出すなど考えられない。  それに、こんな粗野な自分が周囲と馴染めるはずがない。  自分みたいな奴が来たら周りは驚くし、奇異な目で見るだろう。そういう視線はとっくに慣れてはいるが、何度体験しても気持ちのいいものでもないのは確かだ。 「なぜです? 当教会は、明日と翌日の二日間だけ、特別に拝観ができる壁の隙間というものがあるんです。それを見にきたらいかがです」  まるで説法でもするかのように話す男から、ロイドは視線を外した。  この全ての祝福を背負って、人々の中心にいるような男に、自分の気持ちが分かるはずがないと思った。  ロイドは説明を諦め、ただ無言でパンとスープを口に運ぶ。  あと一口ほどでパンが終わるというとき、ロイドはふと先ほど会った奇妙な男、サディアスが言っていたことを思い出した。 「明日は諸聖人の日だと言ったな。明後日は、何かあるのか」  ロイドの問いを受けて、聖職者の男は、手に持っていたスプーンをゆっくりと皿に置いた。  居住まいを正し、ロイドと向かい合う。 「明後日――11月2日は、死者の日です」

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