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第15話

 教会から少し歩いたところの公園のベンチに腰かけ、ロイドは足を投げ出したまま空を見上げていた。  どこまでも広がる秋の青い空だ。日中でも少し肌寒くなってきたが、それでもまだ心地よい日和だ。  明るい青色の空を、時折小鳥たちが鳴き交わしながら過ぎ去っていく。公園の街路樹は紅葉が進み、こうして改めて見ると、いっそう鮮やかに感じられた。  不思議なことに教会を出た時から、心が少し軽くなった。そして日頃の喧噪から、解き放たれた気分だった。  思えば、思うようにいかない毎日に心は埋没し、こうして季節の進みをゆっくり感じるとか、誰かのための時間をとるとか、そういうことがこれまでほとんどなかった。  サディアスとはもう会えないだろう。  あの短い時間を惜しむ気持ちはまだあって、彼ともっと一緒にいろんなことを話してみたかった。  それでも、サディアスは今頃、少しでもあの世で救われているだろうか。  いや、自分みたいな奴がただの一度きり彼の幸せを願ったところで、きっと何も変わらないかもしれない。  だが――  誰かのことを想うことの意味が、少しだけ、分かった気がした。  今後、サディアスを思い出したら、ほんの少しの時間でも、彼の冥福を祈ってやろう。  そしていつの日か、自分が死んで、どこかで――きっと地獄かもしれないが、彼と会うことができたなら、俺の願いは届いていたかと尋ねてみよう。  それから、おまえと会ったあの後、俺がどうやって生きていったのかを、おまえに伝えたいんだ。 「仕事、探すかあ……」  秋の心地よい風を頬に感じながら、ロイドはベンチの背に預けた頭を仰け反らせたまま、ぽつりと呟いた。   *  *  *  教会を去るロイドの背中を見送って、神父はしばらく他の訪問者の対応をしたあと、あの古新聞が置いたままになっていることを思い出した。  片付けようと思って、ロイドが座っていた長椅子を見たが、そこに新聞紙はなかった。  落ちたのかと思って付近を探すも、やはり見当たらなかった。  教会は締め切っていて、風が吹いて飛んだわけでもないだろうと考えてから、神父はふっと微笑んだ。  きっと、さっきの彼が言っていたサディアスという青年の願いは、叶えられたのだろう。  今日は死者の日。こうしてたくさんの魂が、救われていけばいい。 (終)

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