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第14話

 神父自身もロイドの隣に腰かけ、穏やかな声で話しかける。 「どうしたんだね? とても混乱しているように見える」  神父の温かい手で手を握られたとき、ロイドははっとして、自身が動揺していることに気がついた。 「俺は尋ねたいんだ、その男に、……サディアスの居場所を――」  昨日一昨日と会ったあの教会の男はどこへ行った?  そして、確かに存在していたサディアスは、いったい何者だったんだ――。 「先ほども、サディアスと言ったね」  ロイドは荒い呼吸のなかで思い出し、上着の中に丸めこんでいた新聞紙を取り出した。  座る長椅子を横にずれて、神父と自分の間に新聞紙を広げ、サディアスの顔写真に指をさす。 「いたんだ、確かに。触りもした。だけど――っ」  神父はしばらくその新聞紙に目を落としていたが、やがてロイドを落ち着けるように静かに言った。 「彼は、もう亡くなっているみたいだね」 「そんなはずはないんだ。だけど、彼に……」  言葉が出てこなかった。  死者が自分の前に現れてきて、自分に願いを伝えることなど、あるはずがないのに。 「――祈ってくれと、言われたんだ」  絞り出すように告げて、ロイドは自分を抱きしめるように両手で両腕を掴んだ。  感情が揺さぶられ、狼狽え、何が何だか分からなかった。    だがサディアスにもう会えないということだけは、なんとなく確信があった。  あいつに、もう一度だけでも、会いたかった……。    高ぶる感情をこらえるために、ぐっと奥歯に力を入れて噛み締めた。  新聞紙の上に置いた自分の拳は震えている。  そんなロイドを静かに見守っていた神父は、ロイドを気遣うように、ゆっくりと話し出した。 「そのサディアスという人が今どうしているかは分からないが、彼に祈ってほしいと言われたのなら、祈ってみてはどうだろうか」 「……祈り方なんて、知らない」  小刻みに揺れるロイドの肩を、神父は見守りながら穏やかに続ける。 「……なにも固く考える必要はない。その人を心に描いて、その人の幸福を願えばい――」 「願ったり、」  ロイドは神父が言い終わる前に、強い口調で言葉を被せた。 「祈ったりしたところで、どうなるんだ。何も変わらないだろ。まして赤の他人が、もういない奴の幸福を願って、いったい何になるっていうんだ」  神父はしばらくロイドの続く言葉を根気とともに待った。  そして沈黙が降り立つと、神父は手を伸ばし、ロイドの頬に触れてその顔を優しく上げさせた。 「っ……何す――」 「私も、あなたの幸福を祈っている」  ロイドの瞳が揺れる。 「何を言って――」 「あなたは、そのサディアスという彼の冥福を祈りたい気持ちはあるのですか」  ぐっと返す言葉に詰まったロイドに、神父は温厚な微笑みを向けた。 「その気持ちだけで、あなたは彼の幸せを願っているのです。細かい作法はいらない。あなたが想うように、彼の幸福を心の中で、あるいはこう手を組んで、語りかければいい」  神父が両手を組んで瞑目するのを見て、ロイドはためらいながらも、両目を閉じた。

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