14 / 15
第14話
神父自身もロイドの隣に腰かけ、穏やかな声で話しかける。
「どうしたんだね? とても混乱しているように見える」
神父の温かい手で手を握られたとき、ロイドははっとして、自身が動揺していることに気がついた。
「俺は尋ねたいんだ、その男に、……サディアスの居場所を――」
昨日一昨日と会ったあの教会の男はどこへ行った?
そして、確かに存在していたサディアスは、いったい何者だったんだ――。
「先ほども、サディアスと言ったね」
ロイドは荒い呼吸のなかで思い出し、上着の中に丸めこんでいた新聞紙を取り出した。
座る長椅子を横にずれて、神父と自分の間に新聞紙を広げ、サディアスの顔写真に指をさす。
「いたんだ、確かに。触りもした。だけど――っ」
神父はしばらくその新聞紙に目を落としていたが、やがてロイドを落ち着けるように静かに言った。
「彼は、もう亡くなっているみたいだね」
「そんなはずはないんだ。だけど、彼に……」
言葉が出てこなかった。
死者が自分の前に現れてきて、自分に願いを伝えることなど、あるはずがないのに。
「――祈ってくれと、言われたんだ」
絞り出すように告げて、ロイドは自分を抱きしめるように両手で両腕を掴んだ。
感情が揺さぶられ、狼狽え、何が何だか分からなかった。
だがサディアスにもう会えないということだけは、なんとなく確信があった。
あいつに、もう一度だけでも、会いたかった……。
高ぶる感情をこらえるために、ぐっと奥歯に力を入れて噛み締めた。
新聞紙の上に置いた自分の拳は震えている。
そんなロイドを静かに見守っていた神父は、ロイドを気遣うように、ゆっくりと話し出した。
「そのサディアスという人が今どうしているかは分からないが、彼に祈ってほしいと言われたのなら、祈ってみてはどうだろうか」
「……祈り方なんて、知らない」
小刻みに揺れるロイドの肩を、神父は見守りながら穏やかに続ける。
「……なにも固く考える必要はない。その人を心に描いて、その人の幸福を願えばい――」
「願ったり、」
ロイドは神父が言い終わる前に、強い口調で言葉を被せた。
「祈ったりしたところで、どうなるんだ。何も変わらないだろ。まして赤の他人が、もういない奴の幸福を願って、いったい何になるっていうんだ」
神父はしばらくロイドの続く言葉を根気とともに待った。
そして沈黙が降り立つと、神父は手を伸ばし、ロイドの頬に触れてその顔を優しく上げさせた。
「っ……何す――」
「私も、あなたの幸福を祈っている」
ロイドの瞳が揺れる。
「何を言って――」
「あなたは、そのサディアスという彼の冥福を祈りたい気持ちはあるのですか」
ぐっと返す言葉に詰まったロイドに、神父は温厚な微笑みを向けた。
「その気持ちだけで、あなたは彼の幸せを願っているのです。細かい作法はいらない。あなたが想うように、彼の幸福を心の中で、あるいはこう手を組んで、語りかければいい」
神父が両手を組んで瞑目するのを見て、ロイドはためらいながらも、両目を閉じた。
ともだちにシェアしよう!