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第13話

 他人の空似で、しかも名前まで一緒なんてことが、あるだろうか?  何度もその写真と名前を確認したが、間違いない。あのサディアスに違いなかった。  もしや昨晩は夢だったのではないかと思い始めていたところに、サディアスという人間は少なくとも実存したと実感を得た一方で、この記事の内容が理解できなかった。  あいつは――とっくに死んだ人間だった……?  そんなはずはない。彼に触れたときの感覚は覚えている。体温が上がってやがて汗を滲ませたあの肌の手触りも、熱い吐息とその舌の触感も。  ――僕のために、祈ってほしい。  そう切実に懇願してきた彼の顔、真っ直ぐに見つめてきた彼の瞳、繋がった瞬間に流した彼の涙、そのすべてが一気に思い出されて、ロイドはいても立ってもいられず、新聞を握り締めるとその場を走り出していた。  サディアスに会いたい。  そう思った。  彼に会って、年が離れたよく似た兄がいたのかとか、そもそもあの記事は他人の空似で、サディアスとは無関係のものだろうと、確かめたかった。  だが自分は彼のファミリーネームも知らなければ、彼がどこに住んでいるのかすらまったく知らなかった。  そんな中でロイドが選択した行き先は、あの教会だった。  サディアスは、神父に自分の居場所を聞いたと言っていた。それならば、あの神父は、サディアスに繋がる何かを知っているかもしれない――。  息が切れるのも構わず走り続け、いつもの半分ほどの時間であの教会に辿りついた。  肩を激しく上下させながら、重厚な扉を押して入れば、その内部は昨日と同じように薄暗く、荘厳な雰囲気が漂っていた。  幸いにも、自分以外に他の訪問者はおらず、ロイドが入ってきたことに、その教会の神父はすぐに気がつき、優しく微笑んだ。 「サディアスの居場所を教えてほし――」  言いながら神父に近づいていったロイドは足を止めた。  昨晩会った教会の男とは、年齢も、背格好も、顔かたちもすべてが異なっていた。  別人だ……。 「……あの、ここに昨日いた神父――かは知らないが、聖職者の格好をしていた人に会いたいんだ」  ロイドの唐突な申し出に、教会の神父は首を傾げた。 「はて……? ここの教会で聖職者の服を着ると言ったら、私ぐらいなものだが。私は昨日一日ここを留守にしていたんだ」 「誰か代わりが?」 「いいや。昨日は諸聖人の日ということで、中央の方に出張をしていた。この教会は閉めていたんだが」  そんなはずはない。確かに一昨日と昨日、あの聖職者にここで会った。 「諸聖人の日や死者の日のことも、その男から聞いた」  神父はほう、と重厚に頷く。 「祈ってくれと。その、壁の隙間の向こうの者を救うために」  ロイドが壁の隙間を目線で示せば、神父は驚いたようにその真っ白な眉毛を上げた。 「よくご存知だね、この教会に、煉獄を見せる壁の隙間があることを」 「ッ、そんなことより――」  気色ばむロイドに神父は近づき、その手を取って近くの長椅子に座らせた。

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