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第12話

 ――ロイド、きみのためでもあるんだ。僕が嫌なら、誰か別の――。  ――はあ? まだそんなこと言ってんのか。体の力を抜け、挿れるぞ。  わずらわしくなって、彼の言葉を遮って性急に体を繋いだ。  その時、彼の瞳の端で光るものを見た。快楽か苦痛か、顔を歪めたサディアスの頬を流れていった。  その涙の意味を考える間もなく、身体の疲労もあってロイドはすぐに寝入っていた。  翌朝起きたときには、隣で一緒に寝ていたはずのサディアスの姿はなかった。  あれは夢だったのかもしれないと、ぼんやりと昨晩のことを思い出す。  たまに見るのだ、ああいう生々しい夢を。  きっと溜まった欲求が露骨な夢を見させたのだと、ロイドはベッドの上に上体を起こして、だるさの残る体から布団を剥ぎ取った。  眠気を吹き飛ばすように、頭を軽く振って立ち上がる。  今日は、あの教会の男から聞いた死者の日だ。死者のことを心から想うことで、魂の浄化が助けられ、天国に近くなるのだとあの男は言っていた。  だから、誰かにとっては、今日は大切な日なのだろう。  だが誰とも縁のない俺にとっては――そう考えかけて、ふと脳裏にサディアスの顔が浮かんだ。  そんな自分を慰めるようにロイドは小さく笑う。  あれは夢のようなものだ。この先もう二度とない。そしてサディアスにだって、もう会えないだろう――。  ロイドはベッドから離れると外出のために着替え始めた。   *  *  *  無職のロイドが日中過ごしている場所は、だいたい決まっていた。  古びた立体駐車場の屋上か、市民の定番の散歩コースにもなっている、この河川敷に面してベンチが並べられたこの通りだ。  橋の下で日陰になっているいつものベンチに腰かけようとしたとき、ベンチの手すり部分に古びた紙があるのに気がついた。  おそらく風で飛ばされてきて、引っかかってそのままになっているのだ。  ロイドはなんとなくその紙を手に取った。  その紙の質感や内容から、古びた新聞紙であると思ったが、見れば、その日付は何十年も前のものだった。  よくこんな昔の新聞紙を取っておく人がいたなと感心して、何気なくそこに書かれた記事に目を走らせていると、ある一点を捉えたロイドの目は、その記事に釘付けになった。 『地元チームの抗争か、若者ら複数人が死亡――』  そう見出しをつけられた記事の中に、死亡した若者の顔写真と名前が載せられていた。そのうちの一人の顔写真を、ロイドは食い入るように見つめた。  サディアスだ――。  紛れもなく、一昨日、昨日と会ったサディアスの顔写真が載せられ、その顔写真の下にはサディアスの名前が書かれていた。

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