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第11話

 サディアスの体は、頬だけでなく胸や腹も熱を帯びて朱に染まり、最初は滑らかだった手触りも、やがて汗で吸い付いてくるようだ。 「……ロイド、僕はきみに、変わってもらいた――ッん、っ……」  その先を聞くつもりはないとキスで遮り、サディアスの呼吸がままならないほど、執拗に舐め、甘く噛んだ。 「変わるために、明日願えって? 死んだ者のために?」  「そんな言い方を――」 「知らねえな。死者の日に祈れだなんて言うのは、死んだ奴か教会の奴らだけだ」  悲しげな表情のサディアスの鼻の先に、ロイドは軽く口づけて、それかと言葉を続けた。 「信仰に洗脳された、おまえみたいな愚かな奴だけだ」  ロイドの貶めるような言い方に、サディアスは眉根を寄せ、心痛とも怒りともとれる表情を見せた。だがすぐにそっと手を伸ばし、ロイドの首を優しく撫でながら引き寄せる。 「……ロイド、僕はきみに、誰かを想うことの意味を知ってほしいんだ」  僕のようにならないために、そう呟いたサディアスの声はほとんど聞き取れなかった。  鼻と鼻が触れあうくらいの距離で、二人は見つめ合い、サディアスはロイドに柔らかく、深く口づける。  そのサディアスの暖かな手を頬や首に感じても、ロイドの警戒心は容易に解れることはなかった。 「……なぜだ。なぜそれを俺に言うんだ」  ロイドが目を細めて問えば、サディアスは、ふっとロイドに笑いかけた。  「きみは、かつての僕に似ている。だからか、僕はきみのことを放っておけないんだ」 「へえ?」  これまで、何人もの甘い言葉を吐く人間に会ってきた。そういう人間は、下心があって聞き良い台詞を聞かせてくるが、遅かれ早かれ裏切り去っていった。  しかしサディアスの裏切りを心配する必要は別にない。こいつとの関係は、どうせこの場限りのもの――と考えたとき、一抹の寂しさを感じている自分に気がつく。 「……あんたを、信じる理由がない」  問いかけるようにサディアスを見下ろせば、 「僕のことは心配ない。信じてもらっていい」  自分については大丈夫だとはっきりと伝えてくる。  一瞬ぐらりと動きそうになった心を笑い飛ばすように、ロイドは吐き捨てた。 「馬鹿馬鹿しい」  考えるのが億劫になった。答えがないことを考えたって仕方がない。  一方でどっちつかずのこの現状が苛立たしかった。  何を信じて良いのか分からない曖昧さを払い除けるように、ロイドはサディアスの脇腹を腰に向かって強く撫でる。 「ッ、ロイド……」   その予期せぬ動きに、サディアスは一瞬身体を硬直させた。しかしロイドは構うことなく、サディアスの腰から太腿へと手を滑らせた。 「……なにも、変わらない」  この体から感じる体温と、汗の香りやこの汗ばむ肌の手触りも、俺が生きていて、サディアスが生きているからこそ感じられるものだ。  死者の日に祈っても何も変わらない。  誰かがそいつのことを心から想ったところで、(しかばね)が体温を持つこともないし、生き返るわけでもない。  何も、変わらないだろ――?

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