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主の誕生日プレゼント4

「アンドレア様、お手を煩わせてしまいますが、一本だけ蝋燭に火を灯していただけますでしょうか」  暗闇の中での会話に味気なさを感じたので、思いきって提案した。 「五本じゃなく一本というところが、控えめなおまえらしいな」  アンドレア様は弾んだ口調で返事をし、すぐさま蝋燭に火を灯してくださった。 「ありがとうございます」  仄暗い中でも、アンドレア様のお顔を見られるのが嬉しくて、自然と微笑んでしまう。やはり声だけじゃなく、好きな方の表情を見たほうが、私としては話がしやすい。 「カールにお願いがあるんだ。今後のことなんだが」  伯爵家次期当主の座を退いた後は、どうするのだろうと思ったタイミングで話しかけられたので、耳をそばだてる。 「俺はこれから流行り病にかかり、三ヶ月後に亡くなる予定だ」 「え?」  まるで、いたずらを企てる子供のような面持ちで仰った。 「俺が寝込んでいる間は、おまえは暇を持て余すだろう? だから書斎のキャビネットにしまっている『古城の管理』と『骨董品の取り扱い』関連の本を読んで、勉強してくれ。セットでそれぞれ保管しているから、かなりの冊数になるけどな」  人差し指を立ててレクチャーされても、さっぱり意味がわからない。 「勉強することは構いませんが、どうして古城の管理と骨董品の取り扱いなのでしょうか?」  アンドレア様が三ヶ月後に亡くなることのほうが気になったものの、命令されたふたつの意味を先に理解すべく訊ねた。 「それは俺が亡くなった後に、おまえはここを出て、南方にある古城のメンテナンスをするためだ」 「私の再就職先をお決めになっているとは。ちなみに、アンドレア様が亡くなるというのは?」 「プレザンス家の次期当主が、生きてちゃダメだろ。俺がこの世から消えたことにより、妹が婿をとって跡を継ぐのだからな」 (――アンドレア・デ・プレザンスという名前をお捨てになるのですね) 「カール、そんな顔をするな。俺は自分の立場に、まったく未練はない。むしろ別の名を考えるのが、今は楽しくてな。それに――」  靴音をたてて近づき、片膝を床について私の利き手を掴む。真剣みを帯びたまなざしに射すくめられて、おいそれと喋ることができない。 「男爵家三男のカール・ドゥ・イタッセの使用人として、俺は仕えることになるんだ」 「アンドレア様が私に仕えるうぅっ!?」  深夜帯だったが驚きのあまり、素っ頓狂な声をあげてしまった。アンドレア様は頬に笑みを滲ませて、掴んだ私の手の甲にキスを落とした。 「つっ!」 「おまえの出身が貴族でよかった。しかもワガママな令息の執事をこなしているという経歴も、プラス要素でな。おかげで、古城の管理を任せてもらえることになってる」 「アンドレア様が、ワガママな令息なんて……」 「しょうがないだろ、巷ではそう噂されている。それは事実なんだし、否定するだけ野暮だろ」  甲に残るアンドレア様の唇の柔らかさにドギマギしつつも、ぽつりぽつりと語られていく今後の行く末を、頭の中で形成していく。

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