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その後のふたり3

 隣で卑猥なことを言って騒ぎたてるアンドレア様を一切無視し、公共交通機関を利用して、南方に無事辿り着いた。 (結局、私が無視することもアンドレア様にとって、なぜだかご褒美になってしまうのだから、どうしようもないというか)  ウンザリしながら、額に手を当てて歩いていると、アンドレア様は私を追い越し、勢いよく振り返った。 「カール、そんな辛気臭い顔をするな。ふたりの住まう愛の古城が、目の前にあるのだぞ。もっと嬉しそうな顔をしろ」  余程、私の表情が悪かったのだろう。アンドレア様は接待するときに使う、営業スマイルで微笑みかけた。 ※この場面を同タイトルでイラストを掲載してます (――今のお姿も悪くはないのですが、やはり古城とマッチするのは、以前のお姿ですね) 「アンソニーに頼みたいことがあるんです。私のお願いをきいてもらえますか?」  彼のメンタルがすこぶる良さそうだったので、思いきって訊ねた。 「カールからの願いなら、どんなものでも叶えてやる。俺の心の内を晒らして、おまえへの想いを示せと言うのなら、心の臓をえぐり出して、これでもかと見せつけてやるぞ」 「見せつけなくて結構です。言葉遣いがもとに戻ってますよ」 「その塩対応、僕の腰にぎゅんときた」  進展のないバカらしい会話に辟易したが、ここで挫けてる場合じゃない。 「話をそっち系に持っていかないでください。いいですか、古城の門扉から前半分の修繕を終えたら、観光用として市民に解放します」  アンドレア様が余計なことを言い出さないように、これからの生活について、詳しい説明をまじえながら告げる。 「おもしろいことを考えついたな」 「タダで解放せずに、拝観料を徴収します。その際に観光案内役として、アンソニー殿下になっていただきます」  リーシア様に古城の修繕費用と今後の計画をお話ししたところ、みずから援助を申し出てくださった。しかも古城の主にふさわしい衣装まで、用意してくれることになっている。  アンドレア様の寝込んだ期間が半分になったせいで、衣装は当然できあがっていない。古城の修繕と競争になるだろう。 「僕がアンソニー殿下で、カールは僕に付き従う執事様になるということか。それって実際の立場との違いがあって、いいんじゃない?」  私の役など、ひとことも言っていないというのに、嬉しげに告げられたことで、否定できなくなった。 「修繕の手伝いもですが、観光案内で説明する、古城の歴史を覚えてもらいます。しっかり勉強してください」 「カール様が手取り足取り教えてくれるのなら、絶対に大丈夫。僕はやってみせる」  そう言って先に歩き出した大きな背中を、ぼんやりと眺めた。 『アイツは、次期当主としての器じゃない。当家の恥さらしになる前に、出て行ってくれる口実ができて、よかったくらいだ』  そうハッキリと仰った伯爵様。親子での話し合いでは、どのようなやり取りがなされたのかはわからない。  アンドレア様は昔から、お辛いことがあってもそれをひた隠しにし、笑ってお過ごしになるお方で、彼の中のストレスを言葉で引き出すのに、いつも難儀した。  その反動がワガママという形で表現されているゆえに、文句を言いづらいところもある。

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