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好きになるのに理由がいるの?(1)
毎日違う女の子と甘ったるい空気をまとわせながら過ごしている彼から、ずっと目が離せずにいた。
女の子にモテる彼を羨んでいたわけでもなく、彼の席が俺の隣だから仕方なしに視界に入ってきていたわけでもなく、自分の意思とは無関係に視線が彼へと向いてしまうのだ。
そんなある日たまたま彼と目が合ってしまった。ほんの一瞬のことで、彼はすぐに女の子へと視線を戻したにも関わらず、俺の中でだけ時が止まったようで、瞬きも忘れて彼を見ていた。
見ていたのがバレたのかもしれないことへの焦りにしてはあまりにもうるさい心音が体中に響いて、その時にずっと彼から目が離せずにいた理由が分かった。彼に恋をしているのだと知った。
好きになるのに理由がいるの? なんて台詞を目にしては、小ばかにして笑っていた俺だけれど、本当に理由なんかいらなかったのだと、そうじゃなきゃあこの感情を説明できないと、心が震えた。
『お前と俺が今日の日直だけど、日誌も放課後の掃除もお前がやれよ。俺、忙しいからさ』
彼との初めての会話。好きだと自覚して数日後、緊張している俺に対して、気の抜けた声で彼はそんなことを言った。何様だよと言い返したくなるような言葉だったのに、話しかけられた事実が嬉しかった俺は、口元を緩ませながら「いいよ」とだけ返した。
日誌に今日の担当の名前を書く時、自分の名前の横に彼の名前があるのも、黒板に二人の名前が書かれているのも、今回が最初で最後かもしれないと思い、何度も何度もそれを見た。席替えをして離れてしまえば、隣の人とセットで回ってくる日直の仕事を、彼とやる機会はなくなってしまうだろう。
誰かを好きになると、些細なことであっても特別に思えるのか、と少しおかしくなった。そんなふうに一方的な時別が増えたところで、共有ができないから悲しくなるだけなのに。
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