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好きになるのに理由がいるの?(2)
『答え、何?』
二度目の会話は、先生に当てられた彼が、こそりと俺に助けを求めてきた時。左隣の俺じゃあなくて右隣の女の子に聞くこともできたのに。全く仲の良くない俺に聞いてくれたことで、その会話もまた特別になった。
『それ、先生のところに持って行くの? それじゃあ、俺のもついでに出してきて』
三度目の会話は、課題の提出を任された時。
『それ、何聴いてるの?』
四度目の会話は、俺が聴いている音楽を、イヤホンを奪われて尋ねられた時。
『お前、こういう曲も好きそうだと思って』
五度目の会話は、彼のCDを貸してもらえた時。
少しずつの会話が俺の中で特別になって積もっていき、彼との距離は縮まっているように思えた。
そうしてまた日直が回ってきそうになった頃、忘れられていた席替えが行われて、彼は窓側の隅に、俺は廊下側の一番前になった。近づいた距離は物理的に離され、俺が彼よりも前の席になってしまったせいで、授業中の何気ない時間に彼が視界に入ってくることはなくなってしまった。
きっと神様が、叶わない恋だから早く現実を見て諦めろと言ったのだろうと、遠くから聞こえる彼と女の子の会話に耳を塞いだ。
それから数日後、彼に好きな人がいるかもしれないと女の子たちの間で話題になった。
ただでさえ苦しいのに、とんでもないとどめを刺されたと、俯せになり寝ている振りをしながら泣いた。
何にせよ叶わない想いではあるけれど、 好きな人のことは嘘であって欲しいと何度もそう願ったのに、彼が甘ったるい空気をまとわせながら女の子過ごすことはなくなり、噂は本当だったのだと思い知らされた。
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