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触れられる理由をちょうだい①(2)

 けれど、どう助けたら良いのだろうか。  痴漢だと叫ぶのはされてる側からすればアウト? 「痴漢していますよね?」と触っている男性の手を取り上げ捕まえたとしても、痴漢されている方も男性ならば言い逃れされそうだし、周りの目も気になるかもしれない。  それなら体調が悪いかのように扱って席を譲るのがいいだろうか。  その時にこっそり相手の男性へと声をかけ取り押さえ、駅員の元へと連れて行くべき……? 「……く、っ、」  今にも泣き出しそうなその男性に早く助けなければと焦りが前に出てきた。吊革を握る手に力が入っていて、足の前で鞄を握っている手は震えている。  その時、次の駅へ到着するアナウンスが流れた。その声を聞いてスマホにまた文字を打ち込む。 【降りる駅が違っても、次の駅で降りてください】  電車が少しずつスピードを落としていく。俺は立ち上がるとその男性の体を支えた。大丈夫ですか? と声をかけると、安堵からか男性の頬を涙が伝った。 「誰にも、言わないで……。痴漢も、捕まえなくて、いい。怖いし、恥ずかしい……」  体を支えている俺の腕を、その男性は遠慮がちに握り、そう訴えてくる。散々触りまくっていた痴漢を捕まえないでいいというのは、さすがにそういうわけにはいかないと思ったものの、本人が言うならば仕方ない。もし俺が痴漢されていたとしたら、同じことを思うかもしれないし、気持ちは分かる気がした。  ドアが開くと同時に男性の手を引き、電車を降りた。あまり名前も聞いたこともないし、小さな駅なのだろう。ホームには誰も人がいなかった。 「歩けますか?」 「すみません……」  ホームに三つ並んでいるベンチに座らせ、少し先にあった自販機で水を買い、それを渡した。何から何まで申し訳ないと謝るその男性に、気にしなくていいと声をかけ、俺も隣に座った。  重い荷物を持っているお婆さんの手伝いをするとか、そういった人助けはこれまでに何度かしてきたけれど、痴漢されている男性を助けるのは初めてで、どうすべきなのか、どんな言葉をかけるべきなのか、さっぱり分からない。 「あの、スーツを脱いだらどうです? 汗がすごいから、とりあえず上着だけ脱いで、その……、額とか首とか、その他で拭けるところは拭いた方がいい気がするんですけど」 「……っ、」  そう言って、鞄を預かりますと手を伸ばせばその男性は一気に青ざめた。震えが大きくなり、ぎゅうっと体を丸めている。  何も鞄を奪って持ち去ろうとしているわけじゃあないのだから、そんなに怯えなくてもいいのに。

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