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触れられる理由をちょうだい①(3)
「あの、別に俺、怪しい者じゃあないですよ?」
「……そうでなくて、その、……大丈夫なので、もう、帰っていただいて結構です、」
「この状況であんたを置いていけと? それにここ、多分そんなに電車来ないんで帰るに帰れないですよ」
「う……」
そんなやり取りをしている間にさらに男性の顔は青白くなり、冷や汗が額に浮かんでいる。
俺は男性のことなんかお構いなしに無理矢理その鞄を奪った。それから、慌てる男性をよそに今朝詰めてきたハンドタオルを取り出すと、そのまま額へと押し当てた。
「んぁっ、」
「は?」
この状況に似合わない声が男性から漏れ、汗を拭くために見ていた額から体へと視線を落とせば、あぁ……と納得した。痴漢にあって気持ち悪い、怖いと感じていても、体は別の反応を見せていたようだ。
電車から降りてすぐはまだ恐怖心が勝っていて、俺に触れることも俺が触れることもためらっていなかったのに、少しの落ち着きを取り戻して来た今、意識の対象が自分の体に移ってしまったのだろう。羞恥心に支配され、体が敏感になっている。
「勃ってるの、隠したって解決しないんで」
「……っ、」
「トイレで抜いてきたらどうですか? どうせこの駅、俺ら以外いないし」
「いい……、少ししたら落ち着く、と、思うから、」
「そんなにガチガチなのに? 手で押さえてるけれど隠せてないよそれ」
はっきりそう放った言葉を後悔することはなく俺は、その男性の腕を引っ張った。俺が気を遣えばそれはそれでこの男性に恥ずかしい思いをさせるだけだし、どうせ恥ずかしくなるのなら先の見える気遣いの方がいい。
抵抗を見せるけれど、俺のためにも彼のためにも早く処理するのが最善だと思う。この後、学校と会社に行かなければならないのだから。
次の電車を逃してしまえば、またしばらく電車は来ないだろう。どうしても次の電車には乗りたい。俺はこのままこの人を置いて行くことは心配でできないし、この後どこまで同じ時間電車に乗っているかは分からないけれど、乗っている間は不安にならないように見ておきたいし。
「立てますか?」
「……も、恥ずかし、」
「でも処理しなきゃダメじゃあないですか。次の電車が来るまでにちゃんと落ち着くかも分からないのに俺の隣で勃たせたままにしておくわけ? それの方があんたにとって嫌なことだと思うけど」
「……っ、」
「生理現象ですよ。俺も触られたらきっと勃つと思うし、気にする必要ないです」
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