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触れられる理由をちょうだい①(4)

 もう一度強く手を引っ張ると、諦めたのか立ち上がった。俺の身長が高いっていうのもあるけれど、肩を抱き寄せるように支えるとすっぽり腕の中に収まってしまう。  乱れた襟元を整えるために伸ばした手が首筋に当たると、汗で湿っているそこはぴたりと俺の手に吸い付いた。男なのに白くて綺麗な肌だと、一瞬でも魅入ってしまった自分に、おかしくなってバレないように笑った。 「トイレ連れて行った後、俺だけ先にベンチに戻るんで、本当に何も気にせず処理してください」 「……はい、」       あまり清掃が行き届いていないような臭いのするトイレにその男性を連れ、鞄と一緒にトイレへと押し込んだ。スッキリしてから出てきてくださいと釘をさせば返事の代わりにため息を返される。  カチャリとベルトが外される音を聞いて、俺はトイレを後にした。  十分くらいは待ったと思う。いつまでも出てこない男性が心配になり、俺はトイレへと戻った。まだ電車は来ないし、二人きりのホームは相変わらず静かだ。 「おーい、生きてますか?」  コンコンと扉を二回ノックした。それに驚いたのか中からガタンと大きな音がして、無事は確認できた。 「まさか、このままトイレにこもっていればそのうち電車が来て俺がいなくなるとでも思ったの? 残念ながらまだ電車は来ていないし、痴漢されているのを見てしまった後にあんたを置いていけるかよ」  恥ずかしい気持ちも多少は分かるけれど、俺だってずっと心配していたくはないし、全て終わってさよならしたい。  そう言葉を続けると、グズグズ鼻を啜る音が聞こえた。 「勝手で申し訳ないんですけどね、まぁ助けたわけだしそこは俺の言うこと聞いてやってください」 「……っ、」 「で、処理は終わりました? 終わったなら出てきて。一緒に次の電車を待ちましょう」  コンコンと、再びノックする。すると、ゆっくり鍵が開けられる音がして、少し引かれた扉の奥から男性が顔を覗かせた。 「……まだ、何も、」 「え?」 「何も、してない……」 「は?」  それだけ言って閉められようとした扉に、ギリギリのところで手を入れた。軽く挟まれてしまい痛かったけれど、痛がる間もなく扉をこじ開ける。  ひぃっと怯える男性をさらに怖がらせるだろうなとは思ったけれど、俺もトイレの個室の中に入り、鍵を締め扉を塞いだ。

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