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触れられる理由をちょうだい②(1)
◇
「佳吾 くん、待った?」
「いえ、今来たところです」
まるでカップルのデートの待ち合わせのようなやり取りに思わず笑うと、相変わらず鈍い麦嶋 さんは俺が笑っている理由が分からないという様子でぼんやりとしている。
それでもこれからのことを考えたのか、満面の笑みを浮かべた。
「そんなに楽しみだったんだ?」
「うん、だって水族館なんて久しぶりだし……。付き合わせてしまってごめんね」
「俺も久しぶりだから別にいいんですけどね。まぁでも水族館とか彼女と行けばいいのに」
「ここ数年いないってこの間言ったのに、分かっててそんなこと言うんだ?」
拗ねた様子で麦嶋さんが頬を膨らませた。ぷうっとしているそこを指で何度もつつくと、彼は空気が出ていかないように唇に力を入れる。俺とそれで勝負でもするつもりなのだろうか。
いつもならしばらく付き合ってあげるけれど人通りの多いここではさすがに無理がある。呆気なくやめると戸惑った表情を見せた。
「それもういいから、早く行こう」
「……うん」
別に楽しいことでもないのに、そんなにやりたかったのか。やっぱり付き合ってあげれば良かったかと思い、顔を覗き込むと眉を垂らして下唇を突き出していた。
「麦嶋さんって変ですよね」
「え?」
「初めからそう思ってたよ」
「ひどい……」
痴漢からのトイレ事件の日から数ヶ月経ち、友人になるならないで色々あったけれど、麦嶋さんの精神年齢が俺よりも低いおかげもあってか、長い時間一緒にいても会話に困ることもなく、少しずつ会う時間が伸びていった。
電車でも俺が一限から授業の日は同じ車両に乗っている。俺より後で乗ってくる麦嶋さんを俺が元々座っていた席を譲り、座らせていると、それだけのことなのに俺のことを優しい人だと思ったのか、目に見えて懐いてくれるようになった。
車内での会話も増え、時々電話をかけると三コール以内で出てくれる。
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