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触れられる理由をちょうだい②(7)
分かっているのは、初めて会った日に言った通り友人として過ごしてきて、それを今、俺が一方的に終わらせようとしていることだけ。
麦嶋さんを散々子ども扱いしてきたくせに、その俺のほうがよっぽど子どもだ。
「手を離せば傷ついたような顔をするし、ぴったりとくっついて座ったり、彼女を気にしたりするくせに、俺を家に泊まらせることには抵抗はなくて、あげく酒を飲ませても平気だとか……、振り回されすぎて頭が痛いよ」
「……っ、」
「確かに友人になったけれど、提案したのも俺だけれど、そもそもの出会いを忘れてない? 俺が麦嶋さんにしたこと、忘れちゃったの?」
「佳吾くんっ、」
「気を許してもらいたいと思っていたのに、甘えてほしいと思っていたのに、自覚してしまったらそうされることが苦痛だ。意識されないのが悔しい」
怒鳴るようにしてバカみたいに勝手なことを言えば、俺のために開けてくれたであろうビール缶を麦嶋さんが床に落とした。
カーペットへと大きく染みを作るそれを拾うこともなく、麦嶋さんの腕を掴むと寝室まで引きずった。抵抗はするものの、相変わらず力が弱い。
「佳吾くん……!」
ベッドに投げ飛ばし、覆うようにして彼の上へ跨がる。左手で彼の両手首を固定し、右手は服の中へ突っ込んだ。
痴漢をする人の心理は分からないけれど、こうして触れようとしている俺は痴漢をする人と同じなのかもしれない。いいや、あの時よりももっと酷い。
「俺が今からあんたにすることを考えれば、この間の痴漢なんて可愛いもんだよ」
「……っ、」
「もう誰も助けてくれないよ。俺のこと簡単に信用して、優しいだなんて言って、それで家まで上げたあんたが悪いんだ」
麦嶋さんが可愛くて、放っておけなくて、優しくしたのも、懐いてほしいと思ったのも自分なのに。それが結果として自分も麦嶋さんをも苦しめている。
何が運命だ。何がこのまま全く知らない他人に戻るのは惜しいだ。心変わりして余計なことを考えるんじゃあなかった。
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