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it’s rubbing off on me(5)

「いつ返してくれる?」 「今日」 「君は今から帰るだけなのに?」 「新川の放課後の委員会の集まりが終わるまで待ってるよ。いつもと同じじゃん。帰るだけとか言わないでよ」 「それはそうだけど。でも遅くなるときは先に帰っていいんだからな?」 「俺が勝手に待ってるんだから変な気づかいはいらないよ」  そんな会話をしていると授業後の生徒からの質問に答え終わった数学の岸先生が、朝に提出した課題用ノートを返却するようにと近くにいた生徒に声をかけていた。それを見ていた彼はその子に「担当は俺だから俺が配るよ」と言い立ち上がった。 「じゃあ新川、よろしく頼むな」 「はい」 「そういえばお前たちは仲が良いのか?」 「え?」  隣にいる俺に気づいたようで、普段は表情をあまり変えないくせに、岸先生は珍しく眉をくっと上げた。 「だからか」 「何がですか」 「お前が最近課題を出す理由だよ。新川と仲良くなって影響されたんだな。変わるのはいいことだ。相変わらず授業中に寝てはいるけれど」 「……え」  新川に影響されて、の言葉に何も返せなかった。課題を出すようになったのは何となくのつもりだったけれど考えてみればこの数学だけで、それに課題を回収するのは新川じゃあないか。  だから俺は、無意識に……? 「……っ」  じゃあこれからも頑張れよと最後に言葉をかけられたときには自分でもその熱を感じるくらいには頬が熱くなっていた。隠しきれない。俯く俺の顔を覗き込んだ彼が息をのむのが分かった。 「ねぇ……」 「見ていないで、早くノートを配ってきなよ」  それだけ伝えて俺は自分の席へと戻った。ホームルームをしに戻ってきた担任の声を聞きながら、これまで彼に対して見せてきた余裕はこれからは欠片も見せられないと、自分の気持ちに気づいてしまったと、ばくばくとうるさい心臓を必死に抑えた。 END  

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