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微笑む顔の下で(12)
◇
「ねぇ、麻友。私の課題知らない?」
「え? さっき解いていた課題でしょ? ファイルにしまったんじゃあないの?」
「ううん、ファイルにもないの。トイレに行ってる間になくなって……。風で飛んだならそこら辺に落ちているだろうに、そこにもないの」
まずは小さな騒ぎから。彼女のプリントは彼女の予想通り風で飛んで和の机の下で止まった。俺はそれを拾い上げ、和の机の上に置いた。飛ばないようにと筆箱で押さえるようにして。
何か言い訳を作るとすれば「和の机の下に落ちていたから和のだと思って彼の机の上に置いてしまった」ってこれだけだ。
「プリント……なくなっちゃったの?」
「うん、どこにもないの。明日提出の数学の課題が難しかったでしょう? 家に帰ってからじゃあ終わらないと思って、今のうちから解き始めていたの」
「それは……探さなきゃだね。せっかく途中まで解いていたんだろう? 新しくまた課題を貰えるにしても解いていた分がもったいないし、俺も手伝うよ」
大変だと眉を垂らし、心配しているような顔を作れば「早坂くん、ありがとう」と言って彼女は微笑んだ。
……バーカ、お前のプリントなら俺が和の机に置いたぜ、と心の中で舌を出して笑いながら、しゃがんだ彼女と同じ目線の高さになるように膝を曲げた。
「ねぇ、有紗。有紗のプリント……、古里くんの机の上に乗ってない?」
「え?」
一緒に探してくれている優しい早坂くんをハートな目で見つめていた彼女は、その声に立ち上がり、和の机の上を確認した。すんなり気づかれてしまったか……、和はまだ教室に戻ってきていないのに、とタイミングがうまくいかないことが悔やまれる。
そう簡単には合わせられないな。和が戻って来た時に、ちょうどプリントを発見するくらいがベストだっただろうに。
「名前を書いていないから断定はできないけれど、有紗っていつも問題で悩む時、プリントの端にくるくると落書きをするでしょう? それが書いてあるし、これってさぁ」
「あ、これ……。私のだ。どうして古里くんの机に?」
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