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2.過去*真奈

「――――……ん……」  失っていた意識を取り戻して、瞳を開ける。  オレ、倉田 真奈(くらた まな)は、すぐに自分の状況を認識。    ゆっくりと、体を起こした。  またオレ、落ちたのか……。  最後のほう、記憶がはっきりしない。  大きなダブルベッドに、一人、裸のままのオレは、息をついて、もう一度仰向けに寝転がった。  さっきまでオレを抱いてた――――……俊輔の気配はない。  ここは、神尾家の、ものすごくでかい屋敷。その中のほんの一室である俊輔の部屋はものすごく広い。  一般人が通常一軒としてもつような、全ての用途を備えていた。  ドアから入ってまずリビングの用途の部屋。ここにソファやテレビ、大きなテーブル等が有る。  ドアから右に進むと本棚がある書斎。少し奥まってベッドルーム。   ドアから左の奥にキッチンや、バスルームとトイレへと繋がるドアがあり、それら全てが俊輔専用の物として、置かれている。  大きな屋敷の外見にも驚いたけれど、モデルルームみたいなこの部屋に初めて入って、ここが俊輔の部屋だと言われた時は、すごく驚いた。  ここで暮らし始めて二ヶ月も経った今となっては、もう完全に慣れたけど。  ほんと無駄に金持ちって。  意味が、分からない……。  使ってないもんな、この部屋。  俊輔は料理なんかしないし。朝から夜まで出かけてるから、書斎なんか要らない。  トイレとシャワーとベッドがあればいいんじゃないの、と、最近は思ってる。 「――――……」    ……俊輔は……シャワーかな……。  そう思った時、バスルームが開く音が聞こえた。  その所在を確認、オレは、息をついた。 「――――……だるい…」  漏れる声は、掠れている。  視線を上向けて、枕元にあるライトの淡いオレンジ色を、ただぼうっと見つめて。  しばらくしてから、その横の時計を確認した。  午前三時を回っていた。 「――――……」  自分が意識を失っていた時間がどれくらいなのか何となく考える。  外出から帰ってきた俊輔がいつも通りオレに触れたのが、二十三時頃だったような気がする。    今夜は、どれくらい、抱かれてたんだろ……。  ……二時間、くらいかな。  ほんと、あの絶倫男……。  使いすぎで、使えなくなっちまえば良いのにな……。  乱れている前髪を掻き上げながら、心の中で悪態をついて。  オレはそっと瞳を閉じた。  オレは今、大学二年生。ごく一般的な性の、ベータだ。  ほんの二か月前までは、普通に大学に通う、ごくごく普通の学生だった。  今から二年前、オレが高校二年生の時。オメガの母が、病気で亡くなった。  亡くなる少し前に、衝撃の告白。  死んだと聞かされていた父親が、生きてると、母に打ち明けられた。  アルファの父は、奥さんが居る人だから、戸籍上は父親じゃない。  でも、母さんはずっと会っていたらしくて。援助も受けていたらしい。  それを聞いて、色々、納得した。  父さんの保険金があるからといっていたけれど、病弱であまり働けない母との生活で、全くお金に困ることがなかった理由がそういうことだと知って、むしろそうだったんだ、と納得した。  母さんが生きてる間に、アルファの父に引き合わされて。  今後も引き続き支援すると約束してくれた。  その後しばらくして、母さんが亡くなったことを連絡したら、父は約束通り、オレのところに現れて。  住むマンションと、かなりの額のお金を、用立ててくれて、足りなければ連絡してと言っていた。  どれだけ金持ちなんだろう、と思ったら。  ネットで検索すれば、即、名前が出るような、有名な企業の、やり手の社長だった。  祖父の代からある会社を、自分の代で、トップ企業に押し上げた人。  オレが会いたくなると可哀想だからと、いっそ死んだことにさせてと頼んだのは、母さんらしいし。  あの父と母さんの間に、どんないきさつがあって、そういう関係になったのかは聞かなかったけど。  父が母さんをそれなりに愛していたのは。葬式の時の姿を見ていたら、本当かなと思えた。だからこそ、ずっと、援助も続けてくれていたのだと思えたから、特別な反発は感じなかった。  父親として愛せるかと言ったら、それはなんだか全然別の話だったけど、とりあえず、学生の内だけはお世話になることに決めた。  意地を張っても仕方ないし。  でも、割り切って考えてはいたと言っても。  二人きりで生きてきた母が、亡くなって、一人になってしまって。  父という存在がいることは分かって、援助もしてくれたけれど、一緒に生きていくわけではない。  そういう点では、一人になったということに、変わりはなかった。  住むところも変わり、一人暮らしを始めて。  オレ的には、激動の一年だった。  高三になって、大分落ち着いて、受験勉強に没頭して、無事合格。  一年を無事に過ごして、大学二年生。生活のリズムもできてきた。  そんな時、だった。  ――――……俊輔に、会ったのは。 「――――……」  目を閉じて、浮かぶのは、初めて会った時の、俊輔の言葉。 『お前がオレのものになるなら、その願い、聞いてやる』  突然、俊輔にそう言われた時は。  まさか、こんな事になるとは、思ってなかったっけ……。

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