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5.「出会い」*真奈

母さんが他界して一人になってしまったけれど、父は見捨てず援助を申し出てくれた。  友達にも恵まれてたし、悲しいけど母さんの死を受け入れて、一人でもちゃんと生きて行かなくてはと、漠然とだけれど考えていた。  そんな時、だった。  中学までずっと一緒で、仲が良かった幼馴染の佐々木秀人が、とんでもないことになってるのを知ったのは。  高校から学校が別になって、オレは母さんも入院してたし色々忙しくて連絡を取ってなかった。  その間に、柄の悪い連中と付き合いだしてたみたいで、そこで違法スレスレのクスリの売人になって遊び半分で手を出した挙げ句、自らも中毒になり、遂にはその売り物にまで手を付けた、と。ドラマとかでよく聞くけど、本当にそんなことあるんだと、聞いた時は、呆然。  クスリでおかしくなった秀人が、助けてと、オレに言ってきた時には、もう状況は最悪だった。  秀人を更生させるには、とにかくまず、クスリと関わらない隔離された生活が必要なのは明らかで。  しかも、クスリを盗られた暴走族が、秀人を追ってくると秀人は言うし、そっちも、何とかしなければならなかった。  とにかく、秀人の父に事情を話して、押し込むように病院に入院させてもらってから、オレは中学の時にヤンチャだった先輩とか友人のツテを、無理矢理使って、その族が出入りしているクラブを突き止めた。金曜の夜は、そのリーダーが顔を出すらしいことも聞けた。  族の下っ端と話すよりも、そのトップに居て影響力のある人間と話を付けたかった。調べている間に、話が分かる人だという噂を何回か聞いたから、そうしようと決めたのだけれど。  ――――…今思えば、心からやらなければよかったと思うのだけれど、その時はそのリーダーと、何とか、お金で話を付けようと思っていた。秀人が持ってた分のクスリは、全部トータルでも二十万位だと言ってたから、父に渡されたお金から、用立てた。  そのクラブの奥の個室みたいなところに入れられて、一人の男の前に連れていかれた。  何人かいる連中のど真ん中の椅子に座っていた。それが、俊輔だった。  ……顔、整いすぎてて、強い視線を向けられるだけで気圧される。思っていた以上に迫力がありすぎて、ごく、と喉が鳴った。  その情報はなかったけど、絶対アルファなんだろうなと、確信した。  何でアルファが、こんなところで、暴走族のリーダーなんて、やってるんだろうと、頭をよぎった。  どんなに気圧されても、とにかくここまで来て、要件を言わずに逃げるわけにはいかなかった。 「……JOKERのリーダー?」 「――――……だったら?」  周りが嫌な感じに、ニヤニヤ笑う中、俊輔から、そう返事が来たので、オレは、口を開いた。  盗んだクスリは全て返す、二度とさせないから許して欲しい。  金もできる限りは用立てるから、売人からも足を洗わせてやって欲しいと、そう頼んだ。  言い終わるか終わらないかの内に、部屋に居た奴らに、ナメた事を言うなとすごまれた。秀人の代わりに、オレが売人になるなら許してやらない事もないと言われた。  オレは、考える事も無く、即座に断った。  多少悪ぶってはいたけれど、本当はとても優しかった秀人の、狂ったような様を見て、クスリに対してものすごい敵意と嫌悪感を感じていたせいで、つい昂って。  そんな真似は絶対嫌だ、と。自分はどうなってもいいから代わりに秀人から手を引いてほしいと、口走っていた。  逆上した連中を見て、思わず、色んな覚悟を決めた時、だった。   『待てよ』  それまでは、何も言わずに冷めたような目で、面倒くさそうにオレ達のやりとりを見ていた俊輔が、急に口を開いた。 『――――……お前、そいつの代わりに殺されてもいいっての?』  嘲笑を浮かべながらの その問いに。 『……冗談じゃないけど……売人やらされたり、あいつが殺されたりするくらいなら、そっちのがマシだから』  そう、答えた。  もう、あの時の自分の言葉が、勢いだったのか、もはや意地だったのか、それとも、あの瞬間は本心でそう思って言ったのか、それすらも定かではない。  けれど、オレはそう言って、俊輔を、睨み付けてしまった。  余計にまたいきり立つ、下っ端たちに、ああほんとヤバいかもと思った時。  俊輔は周りを、即座に止めた。  それから、俊輔はオレの目の前に歩いてきて、顎を掴んで、持ち上げた。 「――――……っ……?」 「お前、ベータか?」  その質問に、辛うじて頷くと。 「――――……今の生活を全て捨てれるか?」 「……え?」 「お前がオレのものになるなら、その願い、聞いてやる。そいつにも手は出させない」  俊輔はそう言った。 何を言われたのか、全然、意味が分からなかった。  そこに居た下の連中も、分かっていた風には見えなかった。  「オレのものになれ」とは、言われたけれど。   まさか、男の自分に、その類の要求をしてくるなんて、あの時は、想像する事すら、出来なかった。

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