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12.「西条さん」1/3*真奈

 俊輔との会話も聞いているけれど、すごく頭の回転が速くて、頼れる感じ。  ……ただ、物腰は穏やかだけれど、何だかすごみがあって、最初の頃はどう接したら良いのか、かなり困った。  この家に来て以来、オレが俊輔以外で会話を交わした事があるのは、数人。  西条さんと、それからいつもベットメイクやら室内の清掃に来てくれるおばさんとか、料理を作ってくれて持ってきてくれる人たち。でも西条さん以外は挨拶だけだから。お礼を言うだけ。  一番話さなきゃいけないのに、一番話しにくかったのがこの人。  というのも、オレが俊輔の部屋に住むことを、西条さんは、すごく反対していたから。  何度も何度も俊輔を戒めていた。オレが寝室に居る時に、その話が何度も聞こえていた。……俊輔は、全然耳を貸さなかったけれど。  西条さんがもっと頑張って、とにかくここから自分を追い出してくれればいいのにと、オレは願ってたけれど、それも、次第に望み薄になってきた。いつからか、オレの事についてあまり俊輔に言わなくなって。最近ではもう、全然。どんな心境の変化なのか知る由もないけれど、オレの存在を認め、オレに対しても、ひたすら丁寧に接するようになってる。 「おはようございます」  答えると、西条さんはにっこり笑って、俊輔の机に近づくと、いつもの通り何かの書類やら雑誌やらを置いて行く。それを見ながらオレは、ソファに腰かけた。 「――――……」  いつも通りの行為。  西条さんが置いていった物を何度かチラ見したけれど、経営学やら何やら難しそうな本ばかり。雑誌もあんまり見た事ないような企業のトップの談話とかそういうものが多くて。  あれを俊輔は、お酒を飲んだりしながら、目を通す。  頭良いんだろうなぁとか、将来そういう経営とかするのかなぁとか、その姿を見る度に思ったりもする。 「真奈さん、食事はどうしますか? ここに運ばせますか? それともベランダに出ますか?」 「あ……中でお願いします」 「はい」  答えると、ふ、と微笑んで 頷く。  笑顔まで見せてくれるようになって、最初の頃に比べれば、格段に話しやすくなった。  ――――……どうして態度が変わったんだろう。  西条さんは、オレの事も俊輔同様に主人で有るかのように扱う。……というか、俊輔に対してより、オレへの方が優しかったりする気がして、不思議……。  誰かが用意してくれた食事を、誰かが運んできて、オレ自身は特にする事もない。  現実感のない、俊輔の屋敷での暮らし。  全てが夢で、実は目覚めたら、元の家のベッドに居るんじゃないだろうか、とか思う感じ。 「真奈さん、具合でも悪いですか?」 「え? あ、いえ……大丈夫です」  そう答えると、西条さんは窓を開けた。 「具合が悪くないのでしたら外に出たらいかがですか? 部屋にこもりっぱなしは良くないですから」 「後で庭に出ますね。ルークと遊びます」 「いつでもどうぞ。ルークも喜びます」  ルークは、この屋敷で飼われている、ゴールデンレトリバーの名前。  俊輔の犬なのかなとも思うのだけど、確認はしてない。外に出られない代わりに散歩がてら、ルークと屋敷の庭で駆け回る事が多かった。  この庭が、また意味が分からない位に広いので、走りたい放題。  ほんとお金持ちって不思議……。  特に誰もこの庭を使ってないのに、木や花の世話とか、芝生を綺麗に保つとか、すごくお世話が大変そう。  ちなみに、この家を作ったのは俊輔のお父さんらしいけど、別のマンションに住んでるらしくて、二か月経った今も、まだオレは、一度も会ったことはない。  少しして、食事が運ばれてきて、リビングテーブルの上に並べられた。  気を使ってくれながらも、何だかんだと部屋を整理している西条さん。 「いただきます」  そう言って、オレは食事を始めた。  ていうか。俊輔って、普段何してるんだろう。この人も。実際のとこ、一体、何なんだろ。  俊輔は、多分、大学生。……多分。  確認しないでここまで来たけど。 「……西条さん」 「はい?」  オレの方から珍しく声をかけたせいか、西条さんは不思議そうな顔で振り向いた。 「聞いてもいいですか?」 「答えられる事なら勿論答えますよ」  どう聞きたいのか、何を聞きたいのか自分で分からないままに、オレは言葉を口にした。 「……俊輔って、普段は大学生……ですか?」 「――――……」  聞いた瞬間、西条さんが動きを不自然に止めて、オレを見つめた。 「あれ? 違うんですか?」  その反応に、あれ、大学生じゃなかった? と思うけれど、でも高校生では絶対ないし、社会人て感じもしないんだけど?  と思ったら、西条さんは眉を顰めて、こう言った。 「……若と真奈さんは、話をしないのですか?」 「え? あ」  変な顔したのは そういう意味か……。  今更聞くような事じゃない、と思ったのか。  でも、だって、しょうがない。  オレ達、別にそんなにお互いの事、話したりしないから……。

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