13 / 136
13.「西条さん」2/3*真奈
「毎日、同じ部屋で過ごしていて、そんなこと、私に聞くまでもないと思うんですが」
西条さんは、苦笑い。
「……そう、なんですけど……」
「若は何も話さないんですか?」
何だか頷きにくいなぁと思いながら、でも仕方なく、オレはほんの少しだけ頷いた。
少しため息をつくとともに、西条さんはオレの側まで近づくと、「そうですよ」と言う。
「今大学三年生です」
「……全然想像がつかなくて。サークルとかも入らなそうだし」
「サークルは確かに入られてないですが、若は普通の学生として過ごされてますよ」
「……やっぱり想像つかないです……」
ちょっとオレの想像力じゃ無理……。
友達とかと、どう過ごしてるんだろう。取り巻きが居るのかなあ……??
「……真奈さんにとったら、若は普通ではありませんか?」
「――――……」
……頷いていいのか悩みながらも、またオレは小さく頷いた。
すると、ふ、と笑って、西条さんはオレから視線を外した。
オレが食べてるテーブルの上に出ていた本を、本棚に戻すために、少し離れていく。
……普通な訳ないし。
暴走族の頭で。かと思えば、半端じゃない金持ちの息子で。
絶対相手に困ってなんかいないだろうに、男のオレをこんな風にしてさ。意味が分からないし。
そんな風に考えて、フォークをくわえていると、戻ってきた西条さんと視線が合う。なんだか今日は、聞けそうな気がして、ずっと聞きたかった質問を言ってみることにした。
「……あの……西条さんはどうして、俊輔の秘書みたいな事してるんですか?」
「――――……今日はおかしな事を聞かれますね?」
そう言って少し笑い、ゆっくりと話し出した。
「そうですね……私の父が若の父君の秘書なんです。その関係から、といえば納得できますか?」
「……あ、はい」
ああ。何だかひどく納得。
この親子二代にとって、俊輔と俊輔のお父さんは、圧倒的に「ご主人」な訳かぁ……。
「若を立派な跡継ぎにする事が、私の仕事です」
凛としたまっすぐな視線。
――――……本気でそう思って居るんだろう事は、すごく よく分かる。
だからこそなおさら。
当初の西条さんの、オレに対する嫌悪は、理解できた。
分からないのは、最近の、この態度。
今まで、用事のやり取りしかしてこなかったけれど、なんだかこの雰囲気だと、もう少し聞けそう……。そう思って、オレは、フォークを置いた。
「西条さん、オレが最初ここに来た時……すごく、反対してましたよね……?」
ずっと気になっていた事が、さらりと口から流れて、その言葉に西条さんは少し目を大きした。
それから、少し困ったように眉を顰めながら、頷いた。
「……はい。そうですね」
「オレ……それは、凄く良く分かるんです。……邪魔ですよね、俊輔を立派な跡継ぎにするには、オレって」
「そう、ですね。 最初はそう思っていましたから」
「……最初、は?」
聞きとがめたオレに、西条さんはますます困った顔をした。
……こんな顔もするんだ、この人。
そんな風に思いながら西条さんを見つめていると、西条さんは「若には内緒ですよ」と、彼らしくないセリフを口にした。オレが頷くと、西条さんはこう言った。
「……良い形かどうかは別として。若はあなたに執着してます。それはお分かりですよね?」
「……」
……執着……まあ……意味は分からないけど、確かに……。
オレが否定はしないで、でも頷きもせずに、西条さんを見つめていると、彼は言葉を続けた。
「若がこんな風に誰かに執着するなんて事は初めてなんですよ。真奈さんにとっては、迷惑かと思いますが」
「――――……」
「若が私からの忠告に、ここまで耳を貸さなかったのは、初めてで」
「――――……」
そう言うと、西条さんはそっと瞳を伏せて、それからすぐに目を開けてオレを見つめた。
「私からもひとつ質問させていただいてよろしいですか?」
「え。あ、はい」
「真奈さんが最初にここに来た原因となった方ですが」
「はい」
「――――……どういうご関係の方ですか? ただのお友達、ですか?」
「秀人は……友達です」
「クスリが原因でしたよね? 真奈さんと彼に繋がりがあるようには思えないんですが」
「……小学生からの幼馴染で」
そう言うと、西条さんは少し首を傾げた。
「……幼馴染が困っいてると、暴走族のトップの所に殴り込みされるんですか?」
「あの……殴り込みをしたわけじゃないんですけど……お金で解決できたらと思ってたので……」
「――――……どちらにしても、感心してしまいますね」
しばらく無言の後、心底感心したように言われて、オレは思わず苦笑いを浮かべてしまう。
感心されることじゃないよな……。
ほんとに、やらなきゃよかったと、今は思ってるし。
ともだちにシェアしよう!