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23.「凌馬」4*俊輔

 結局、全部告白させられることになり、今の真奈とのことも、話した。  大体全部話し終えたところで、もう話すことねえけど、と言ったら、凌馬は、んー、としばらく黙った。 「なんか……不思議なことになってンな……よく和義さん、許したな、そんなこと」 「ああ。……過去イチ、反対された」 「だろうな」  はは、と笑う凌馬。 「……あれだな。そいつ、オレのとこに来てたら、お前とはそんな風になってなかったんだよな」  何だかしみじみと、そんな感想を述べている凌馬に、ふと思いついて。 「お前なら金もらって終わりか?」  そう聞いてみると、凌馬はまたしばらく考えてから、首を振った。 「金もらうかどうかも分かんねえな。族のたまり場の中心に一人で乗り込んでくる時点で、結構オレはそいつ好きかも。そのまま帰してやったかもしんねえな。……まあ大体クスリなんか程々にしろって元々言ってた訳だし。 トラブったそいつらの方、どうにかしてえかな」  その答えを聞いて、凌馬らしいと思う一方で。 「凌馬が居れば……オレとはこんな風にはなってねえな。そもそも売り言葉に買い言葉で、まわりがいきり立ってたのも、お前が端から話を聞いてればならなかっただろうし。助けてやるから、オレんとこに来いなんて言うことも絶対無かった」 「……まあそうだけど……」  そのまま、また黙る。 「お前が居れば、な……」    何だかそんな言葉が自然に漏れたオレに、凌馬はぷ、と笑った。 「……よく分かんねえけど。その子にとっては、運が悪かったと言えるかもしんねえけどさ」 「……」 「そういう運命なんじゃねえの?」 「……運命?」 「少しの時間の差とか、少しの選択の差で、人生って変わるだろ。その子が、オレが居る時間じゃなくて、お前しかいない所に尋ねたのもの、もうそういう運命だったとしか言いようがねえ」 「……」 「だから、オレが居ればとか、そういう仮定の話は意味がねえよ」 「……まあ、そう、か」  確かにそうなんだけど。と、黙っていると。 「そいつがオレの所じゃなくてお前のトコに来て。んで、お前はムカついたんだか何か知らねぇけど、好きでもねえのに男を抱いて? んで、今一緒に暮らしてるなんて運命以外のなにものでも……つか、悪いな。やっぱりお前が誰かと一緒に暮らしてるっつーとこが、信じられねぇな」  最後のところで、可笑しそうに笑い始める。 「笑うなっつの……」 「だってさぁ……」  しつこくクスクス笑って、それから凌馬はオレを覗き込んだ。 「なあ、会いてえな。そいつに会わせろよ」 「……は?」  心底嫌だと、一声で分かるような声を出しているというのに、凌馬は引き下がらない。 「明日、土曜の集会あっからよ。連れて来い」 「何言ってやがる、冗談じゃね」 「よし、賭けようぜ」 「は?」 「オレと賭けて、お前が負けたら連れてくる。ど?」 「ふざけんな、オレに何のメリットがあってそんな事……」 「負けんの、怖ぇのか?」  ……分かってる、これは、煽られてるだけだって。でもムカつく。 「……やってやるよ」 「よっしゃ」  ……結果。  集会に、真奈を連れていく事が、確定してしまった。 「マジかよ……」 「だから、これもそういう運命なんだって」  クッと笑いながら、カードをしまっている凌馬。 「……絶対集会なんか、嫌がる」 「ここまで聞いたところだと、その子にとって、お前と暮らしてること以上に嫌なことなんかねーと思うけどなあ?」  じろ、と凌馬を睨むと、凌馬は肩を竦めて苦笑い。 「……あ、名前は? なんていうんだ?」 「真奈。真実に、奈良の奈な」 「真奈、ね。ふうん……ベータって言ってたよな?」 「ああ」 「オメガなら、もしかしたらまだ先があるけど……ベータの子とは、どうせ、続けられねぇだろ?」 「……そうだろうな」 「親父さん、許さないよな」  まああの父は、オレに出来うる限り良い相手と結婚させたいのだろうし。  まあそうでなくても、後継ぎをと絶対思ってるだろうからな……。 「……まあそうだろうな。つか別に、結婚したいとか思ってるわけじゃねえよ」    そう言うと、ふうん? と凌馬がオレを見つめる。 「お前が誰かと暮らす気になるなんて、オレにとっちゃ、結構な奇跡だけどな」  は、とため息をついて、オレは酒を一口飲んだ。 「……つかお前はいつ、族、引退すんだ?」 「今年中には」  凌馬は出席日数が足りなかったり、喧嘩がバレたりで、オレより一年遅く高校を卒業した。  オレは凌馬に族のリーダーを引き継いでやめたが、かれこれ二年間、そのままだ。 「もし引き継ぐ奴がいねえなら、解散もありだろ。もともと、走りたくて作った族だし」 「……まあな。でも、ここが居場所になってる奴もいるし。作るのは簡単だけど無くすのって難しいよな」 「まあそうけどな……」 「……あれそういや、真奈は年は? いくつ?」 「学年的には、お前と一緒。大学二年」 「へえ。てことは年的には一つ下か……ふうん……とりあえず、土曜、楽しみにしてるわ」 「――――……」  心底嫌で、ため息をついた。  

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