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22.「凌馬」3*俊輔

「どんな男? 年は? どこで知り合った奴?」  その勢いに、詳しく話さないと帰れそうもないものを感じる。逃げようかと一瞬思ったが無理だな。……つか、話し始めた時点で無理って分かってはいたけど。  ため息をつきながら、凌馬を見やった。   「さっきお前が言ってた、二か月前……。ここで約束してたのに、オレが帰った時」 「ああ。オレが少しだけ来るの遅かったら、帰ったやつな?」  その言葉に苦笑いしつつ、続ける。 「あん時、ここで会ったんだ」 「……ん?」 「ここに乗り込んで来たんだよ。ほんとは、お前に会いたかったんだろうけどな」 「……どーいうことだ?」 「……クスリを持ち逃げして使ったバカな奴が居て、そいつの友達だったんだ。金を払うから、見逃してやってほしいとか、言いに来た」 「――――……ああ、そっちの話は、聞いた。クスリでトラブったって。で、全面禁止にしたぞ」 「ああ、そうなのか」 「それまでは違法までいかない奴だったし、ほっといたけどな……やっぱりそう言うことになるんだってことでさ。仲間同士でトラブるとか、バカらしいしな」  そう言った後、凌馬は首を傾げた。 「トラブったところに、わざわざ乗り込んできたの? そいつ」 「そう」 「もともと族に関係あった奴?」 「無い。完全に一般人」 「――――……バカなのか? 平和ボケしてんのか?」 「……平和ボケの方かもな。あとはもう、必死で、それしかないって感じだったのかもしんねーけど」 「……ん? それで? なんなんだ?」  いまいち分からないという様子で眉を顰めている。 「金出すって言ってるのもあって、上の奴に会いたいとか言って、オレのとこに連れてこられた訳。お前が居なかったから」 「ああ……なんかそれ少しだけ誰かに聞いたな。金は出すからって言ったんだっけ? 結局、どうなったかまでは聞いてなかったな、そういや。曖昧な話で……」  あの時あそこに居た全員に、この話は終わりだ。もう追いかけんな、とだけ言って、強制終了したからな。   ……意味が分からず、そのまま、うやむやで終わったんだろうし。  凌馬にわざわざ報告する奴も居なかったんだろうなと、容易に想像はつく。 「金は、とってない」 「――――……」  しばし無言でオレを見つめていた凌馬は。 「金じゃなくて、そいつ自体を、お前が欲しかった訳?」 「……別に、欲しかった訳じゃ……」 「だって結局、 お前はそいつと一緒に居るんだろ?」 「……居るけど、別に欲しかった訳じゃねえし。……ただ、ムカついて……」 「ムカついて、抱いてんのか? 部屋に住まわせて? 何でだよ」  呆れたような口調。 「……さあ……」  それが一番よく分からない。  聞かれたって、答えられる筈もない。 「さあって……」  凌馬が、困ったような表情で、オレを見つめる。 「お前がしてきたことの中で、一番、意味が分かんねえかもしれない……」  苦笑いでそう言って、凌馬は煙草をもみ消した。 「もう、覚えてる限り、会話、一から話せ」 「覚えてねえよ」 「思い出せよ。んな頭悪くねーだろ」  そこからあの日のことを、最初から思い出して、話す羽目になった。  

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