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30.「咄嗟に」*真奈

   俊輔のバイクは、速くもなく遅くもなく、特に乱暴に走る訳でもなく、ちょうど真ん中を走り続けた。  他の族の集会など見たことはないけど、これだけの人数で走る族というのは、かなり大きい方なのでは……。  しかもそのほぼ全員が特効服みたいなのを着ている以上、道行く一般人は皆、車を止めて、ただ通り過ぎるのを待っているしかないらしい。  他の車の走行を止める役割の連中も居るらしく、信号なども、まったく役に立っていない。  ――――……迷惑極まりないな、ほんと……。  心の中で呟きつつ、けれど今自分がその真ん中を走っている事に、ものすごく矛盾を感じる。  だんだん車通りの少ない道に入っていって。道路を貸し切りみたいに走り続けていく。  ……マジでマジで、早く帰りたい……。  警察来るんじゃないかな。よくテレビで見るような攻防が繰り広げられたり……。  ヤンキー漫画の世界だけかと思ってた、こんなの……。  とにかく、時間が過ぎて、解散する事を、ただただ願ってると。  「――――……?」  不意に、俊輔がバイクを止めた。周りも次々に、ブレーキをかけていく。  こんな道路の真ん真ん中で、何? 警察??  そう思った瞬間。 「俊輔、悪い!」  先頭に居た凌馬さんが、逆走してきて、そう言った。 「喧嘩か?」  俊輔の声は落ち着いてる。……というか。……むしろ、楽しそう……な気がする……。 「ああ。またグールの奴らだ。ほんとよくかち合うよな」 「そーだな……」  楽しそうに答えた俊輔が、ちらりとオレに視線を走らせてから、また凌馬さんを見た。 「もう前の方で、始まってんのか?」 「ああ――――……どうする? 抜けて帰るか?」  凌馬さんの言葉に、「は? まさか」と呆れたように言う俊輔。 「どーするもねーだろ。――――……やろうぜ」  俊輔は絶対楽しそう。そうとしか思えないような声で言って、にやりと笑う。  トントン拍子で進んでいくそんな会話と、どんどん近づいてくる喧噪。近くでも、喧嘩が始まってる。オレが、ただただ強張っていると、俊輔がオレを振り返った。 「Jokerとよく対立してる族だ。真奈、喧嘩したこと――――……」  その質問の意図を察知したオレ。 ぶんぶんぶんッと、首を横に振る。 「ある訳ねぇよな……」  俊輔は、チと舌打ちして、ぐい、とオレの腕を掴んだ。  何やら叫びながら殴りかかってくる相手を一蹴しながら、俊輔はオレを道路の端の樹のところまで連れて行った。  ぐい、と頭を押して否応なく座らせると、オレをまっすぐ見つめた。 「ここに居ろよ。絶対ぇ動くな。どーせすぐ警察に連絡が行くだろうから、それまでの喧嘩だ」 「…………」  こくこくこく。あたりの迫力がすごすぎて、オレはただただ頷いた。そうこうしている間にも、周り中ですさまじい乱闘が次々と。    うー。一体こいつらって、何が楽しくて、こんな事してんだよー!!  バイクが好きなら、何人かで楽しく走ってればいーじゃんかー!  完全にヤンキー漫画だ、ヤンキー映画だ。別世界なんだけど……!!   何でオレ、こんなとこに!  心の中で叫んでるオレに、俊輔は続けて。 「絶対に動くなよ。見えるトコに居るから、誰か来たらすぐに呼べ」  それは絶対そうする! そう思って、今度は一つ、大きく頷いて見せる。  それを確認すると、俊輔はその輪に戻っていった。けれど言った通り、オレに一番近い、喧嘩の輪の端の方に居る。  そしてたまに、オレを振り返る。  しばらくすると、喧嘩してる皆は、樹の下にいるオレなんかには、誰も気づかないらしいことを悟り、少しだけ静観できるようになってきた。    俊輔も、凌馬さんも……余裕、だなァ……。  周りはかなり必死らしいけれど、二人を見ていると、楽しんでいるようにすら、見える。  俊輔に本気で殴られないように気をつけようなんて、思わず考えてしまうくらい、俊輔は生き生きと殴り合い……とは言わないか。一方的な攻撃、と言うべきかな。もう、生き生きして見える……。  ……オレにする乱暴な動作って。  腕引っ張ったり、押し倒される時優しくなくて、すごい乱暴だと思ってたけど……。  あれは、もう、全然乱暴じゃないのかもしれない……と、初めて思った。  ……手加減してたんだとしみじみ思う、妙な感覚……。   「――――……?」  その時。不意に、気付いて、目を凝らす。  俊輔に殴り倒された内の一人が、ゆらりと俊輔の背後で立ち上がった。その手に、光る物体を見つけて、体が竦む。  ――――……ナイフ……? 「俊輔……!」  叫んでいるのに、聞こえないみたい。そりゃそうだ、すごくうるさい。    ――――……危ない。  そう思った瞬間。  勝手に、身体が、動いてしまった。  途中で駆け寄るオレに気づいた俊輔が驚いたような顔を見せたけど、オレを見てしまってるから、背後の男を振り返らない。   「真奈!?」  オレは、両手を広げて、俊輔の前に立ちはだかったんだと、思う。  とにかく咄嗟に、俊輔を――――…… 庇って、しまった。

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