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31.「収穫」*真奈
「――――……ッ」
顔を背けて、広げていた手をそのままに全身を強張らせていたけれど。
いつまで待っても、覚悟した痛みは、訪れなかった。
恐る恐る目を開けると、凌馬さんがそのナイフを持つ男の手を掴み上げた所で。
はー……。 助かった……。
と、安堵して体から力が抜けた瞬間、いきなり肩を掴まれ、後ろに引きずり寄せられた。
「――――ッ」
あまりにものすごい力だったせいで、呼吸が一瞬止まった。引きずり寄せられると同時にくるりと身体を回転させられる。
「っの、馬鹿野郎!!」
何やらものすごく怒ったような必死な顔をしている俊輔が目の前に居ると思ったら、次の瞬間、怒鳴りとばされていた。
「何やってんだよ! 動くなって言ったろうが!」
「……ッな……」
こんな奴助けに入るんじゃなかった……!
激しく後悔した瞬間。
「おいおい、それじゃ可哀想だろうが」
さっきの男を片づけて、ふう、と息をつきつつ、凌馬さんが苦笑いを浮かべる。
そして、オレの胸ぐらを掴み上げている俊輔の手をぽんぽんと叩いた。
「助けてくれようとしたんだ。真奈ちゃんが走って来てなかったらオレだって気づかなかったんだぜ? 怒鳴る前に言う事あんだろ」
「……うるせえ」
言いながらオレから手を離した俊輔に、凌馬さんはぷっと笑った。
「子供か お前は」
「……っるせえよ 凌馬」
きつい瞳で睨む俊輔に構わず、凌馬さんはクックッと笑う。ナイフを折り畳むと、凌馬さんはぽい、とオレに渡した。
「俊輔助けた記念に持ってれば?」
「……」
手渡されたナイフを両手で持ったまま、俊輔を見上げてみる。俊輔は面白くなさそうにオレから顔を逸らした。
……何で怒ってんのかちっとも分かんない。
オレ、確かに助けようとしたのに。何でこんな怒ってんだろ、俊輔。
「そろそろオレらもバラけるぞ」
凌馬さんがそう言う。警察が来るのかな。皆、一斉に散らばりだした。
「……凌馬!」
「なんだ?」
バイクにまたがった凌馬さんが、振り返る。
「今日はこれで帰る」
「帰るっておま――――……」
俊輔にメットを差し出されて受けとるオレを見ると、凌馬さんはその言葉を途中で止めた。
「……分かった。でも皆、お前が来るの楽しみにしてんだから、また来いよ?」
「ああ。……今度はこいつ、連れてこねぇから」
むかっ。
そんなに足手まといってこと? 確かに喧嘩とかした事ないけど。ていうか、オレ、来たくもないのに、無理矢理連れてこられたのに。
なのに、そんなに嫌がられるオレって、なんか すごく可哀想じゃない? ちくしょー……。
メットで表情が分からないので安心して眉根を寄せ、俊輔を恨んでいると。
そんなオレの耳に、凌馬さんの笑い声が響いた。
「心配でたまんねえもんな? 安心して喧嘩もできねえんだろ」
「――――……ざけた事言ってんじゃねえよ」
俊輔がドスの利いた声で言い返しているけれど、一向にめげることなく、凌馬さんは笑った。
「ナイフ。あぶねえから、オレが持ってる」
そう言われて、俊輔に手渡す。
「つかまってろよ、ちゃんと」
今度は俊輔もちゃんとメットをかぶって、前を向いて、走り出した。
今日の収穫。
俊輔にも、苦手な人が、というか……俊輔の迫力にも全然動じない人が居るんだと言うこと。
そして、その人と俊輔は、随分仲が良さそうだと言うこと。
そして。オレのことを、その人に話していたってこと。
……あと。これは収穫じゃないけど。
助けたつもりなのにすごく怒られるという、やっぱり、俊輔は、めちゃくちゃ理不尽だって、分かった。
……ひどい。
ちょっと泣きたい気分だったりする。
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