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2.「初めて」*真奈

  「んなこと言っても、何だよ?」 「……怖いとか考えてなかったから……」 「考えなかった?」 「オレが刺されるとかそういうの……一瞬、何も考えずに出たから……あの時は怖くはなかった」  そう言ったら、俊輔がため息をついた。 「――――……お前、誰でもそうか」 「……?」 「……ここに来るきっかけになったのだって、他人の為だろ」 「……」  まあそう、だけど……。  でもオレがここに居なきゃいけなくなったのは、他人の為っていうよりは……。  ……俊輔のせいっていうか……。確かに、あいつのかわりにどうなっても良いとは、言ったけど……。 「……オレの事も、助けるのか?……同じように……」 「……」  でも口に出せなかったのは。  俊輔の言い方が、態度が……何だか、どうも、よく分からない、というか……。  なんか、いつもと、違う感じがするから。 「オレが死んだ方が、いいんじゃねえの」 「……え……?」  オレは思わず眉を寄せて、俊輔を見つめた。 「オレが居なくなればお前は自由だろ」 「――――……」  自分をあざけるみたいな、変な笑い方。  なぜだかその言葉が――――…… すごく切なかった。  胸が痛くなるようなその感覚に、まっすぐに俊輔を見つめていたけど。 「……オレ……」 「――――……」 「……そんな風に……俊輔が居なくなればいいなんて……思ってないし」    確かに最初の頃は――――……殺してやりたいとか、少しは思ったけど……。  結局人を殺すという行為が出来るはずもなくて。しかも、自分がどうなっても良いと言った手前、自分を責める気持ちもあったし。  そんなこと、出来る訳ないってことで、考えなくなったって感じだったけど……。  だけど。 何だか今は。  できない、とかじゃなくて。そうじゃなくて……。 「……死んだ方がいいなんて、思ってない……」  それは素直に口に出た言葉だった。  別に、睨まれているからでもなければ、機嫌を取ろうとか、そういうのもなくて。  「……俊輔が危ないと思ったから。邪魔だったのかもしんないけど、一応助けに行ったつもりなんだけど……なんでそんなに怒んのか、全然分かんない……」 「――――……」 「……しゅんすけ……?」  答えない俊輔に引き寄せられて、また組み敷かれる。 「……」   真上の顔を見つめる。  ふっと今夜の集会での、周囲の俊輔を見る視線を思い出す。  ルックス良くて頭良さそうで……女にはモテるだろうし。男にも、憧れてる奴らはいっぱい居そうだったし。  半端じゃなくお金持ちで。何もかも持ってそうで。  ……なのに、何でオレを、ここに置いて置くんだろう。  最初はオレの事がどうしても気に食わなくて、ただ苦しめる為にしてんのかと思ってたんだけど。なんか……。 「真奈」 「……?」 「……何で……」 「え?」 「――――……何でも、ねえ」  最後まで言わずに、俊輔は言葉を切る。  またキスされて――――……手が触れてくる。 「……っ……」  俊輔が、何で怒って、何を言いたいのか、本当に、全然分からない。  ……どうすれば楽しそうに笑うのか、なんて事はもっと。全然、想像すらつかない。  俊輔って――――……どーなれば、楽しそうに、笑うのかな……。   「……ん……っ……」  段々何も考えられなくなっていく。  その日の俊輔は――――……結局、媚薬を使うことは無かった。それは、初めてで。  しかも、全然、離してくれなくて。  本当におかしくなりそうだった。  

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