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6.「誕生日」*俊輔

 シャワーを浴びて、バスルームを出た。髪を拭きながら、部屋に戻る。  真奈はソファに座ってて、コーヒーは、リビングテーブルの方に二つ並んで置いてあった。  こっちを見てる真奈に、聞いてみることにした。 「……真奈」 「ん?」 「お前、誕生日、いつだ?」 「え?」  途端、ものすごく驚いた顔をして固まっている真奈に。  ち、と舌打ちしたくなる。早く答えろよとイライラする。 「……誰の? オレの誕生日??」 「今他に誰のを聞くっつーんだよ。お前のだ」  真奈の返事に更に苛つきながら、もう一度言った。 「いつなんだよ?」 「……あの……お……おととい」  真奈の言葉に、今度はオレが少し驚いた。 「……は? おととい? 集会に行った日?」  オレが真奈を睨むと、真奈は困ったようにオレを見つめ返してくる。 「……なんで言わねえんだよ。忘れてた訳じゃねえだろ」 「あ、少し前には気づいてたんだけど……当日はすっかり忘れてて、過ぎてから気づいたんだけど」  そんな真奈の返答も、分からなくはない。  今の自分たちの関係で、真奈が嬉しそうに誕生日を告げてくる方が、不自然だ。  それは分かった。……けれど。  何だかどうしても不愉快で、睨み付けてしまう。真奈は、困ったようにただ黙って、じっとオレを見つめていた。 「……分かった」  そう言って、少し離れて、ソファに座る。興味もないテレビに目を向けていると。  少しして立ち上がった真奈が、コーヒーを手に近づいて来た。  静かにローテーブルにコーヒーを置くと。真奈も少し離れたソファに腰掛けた。 「……」  特に会話もないまま、コーヒーを啜る。考えてみたら、真奈の入れたコーヒーを飲むなんて事も、こんな近くでソファに座るなんて事も。  同じ部屋に暮らしているのに、初めてで。  落ち着かない様子で、マグカップを持っている真奈を何となく視界に入れながら、オレはため息をついた。  こんなんなら、すぐにでも手ぇ出しちまった方が、よっぽど楽だな……。  そういや、凌馬が真奈と話したいとか言ってやがったけど。……一体何を話すつもりなんだ。  共通点なんて、まるでねえけど。 「――――……」  コーヒーを飲み終えると、なんだか居心地が悪すぎて、オレは立ち上がった。  冷蔵庫からビールを取り出して、一息で煽る。  コーヒーを飲んだ後に、アルコールなんて普通飲まない。  ……なんかうまくないな。そう思いながら、ソファに座ってる真奈の後ろ姿を目に移す。 『……何でお前、あの子、好きなの?』  よみがえる、凌馬の言葉。  何だか不意に、どうしようもなく苛つく。    真奈に近づいて、後ろから、真奈の顎を掴んで上向かせた。 「え」  見上げてくる真奈に、ゆっくりと、唇を重ねた。  真奈は何故か目を閉じない。  ……いつもはぎゅ、と目を伏せているので、キスしながら瞳が合う事は滅多にない。 「……何で目ぇ開けてんだよ?」 「……何でって……別に……」  困ったように言う真奈の顎から首筋へと触れた瞬間。真奈が異様に大きく、びくん、と体を震わせた。 「……真奈?」 「あ……えと……」  真奈はかあっと赤くなって、顔を逸らした。

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