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10.「もう無理」*真奈

   もう、ほんと、無理……。    散々抱かれて、最後はまた落ちたみたいだった。ふと目が覚めて時計を見ると、まだ二十二時前。今日は俊輔が帰ってきたのが早かったからか……。  俊輔は、今はシャワーを浴びてる音が聞こえる。側に居なくて、良かった。 「――――……」  ため息が漏れてしまう。  本当、こんなの、無理……。  何で、どーして、あんな風に抱くんだろう。  ……なんで、あんな風に、見つめんだよ。  つーか…… 今までも、あんな感じだったんだろうか。  俊輔はいつも、あんな風に抱いてたんだろうか。  ……オレの反応も、ずっと、ああだったんだろうか。  翻弄されて、声を抑えられなくて、俊輔のすることに、もう何もかも分からなくなって。 「~~~……ッ……」  もう俊輔の顔なんか、見れない。そんな風に、思ってしまう程。恥ずかしいというのか何なのか。もともとそんなに素面で向かい合うなんて事はなかったけど、でも今、本当に無理。  ため息をついた時。俊輔がバスルームから出てくる音がした。  もうオレ、今日は寝たふりで過ごす。そう決めて、枕に突っ伏して、絶対動かないことを誓った。  しばらくしてから、かさっという紙の音が聞こえる。俊輔が近づいてくるのが分かった。  寝た振り寝た振り……。  起きれない。顔なんか見れない。  ましてもう一度、なんてなったら、それこそ、耐えられない。  すると、ベッドに俊輔が座る気配がして。  ――――……何を開けているのか、静かに紙を破るような音。その後、俊輔の動く気配がしない。  何をしてるんだろう、と不思議に思いながらも、その疑問よりも、顔を合わせたくない気持ちの方が強かったので、ひたすら眠った振りを続けていると。  枕を抱えるような感じで伸ばしていた左手首に、俊輔が触れた。  ……何??  何とか動かずに耐えられたのだけれど、何やら、ヒヤリとした冷たい感触が触れて。それが、手首に、する、と収まった。  ……何? ……なんだろ、この感触 ???  左手、何……?  しばらく葛藤の末、好奇心に負けて、オレはゆっくりと寝返りを打った。 「……起きたのか」  俊輔が穏やかに言う。 「……うん」  何かを右手に持ったまま、俊輔がふ、とオレを見つめる。  視線をあわせる事が出来ないまま、オレはゆっくりと起きあがって、いまだ手首にある冷たい感触に目を向ける。 「――――……?」  手首に収まっているのは――――……何やら、綺麗なバングルだった。 「……なに……??」 「――――……やる」 「え??」  先程までの葛藤すらも忘れて、まっすぐ俊輔を見つめる。 「いいから、好きな時、つけてろ」 「……うん」  何だろう、これ? とすごく思いながら、それでも頷く。 「水」  また持ってきてくれてたらしいペットボトルを渡されて、喉を潤しながらも、手首のバングルが目に入る。 「……ちょうど良い。誕生日の祝いだ」 「え」  俊輔から漏れた意外な言葉に、ただ呆けて、俊輔を見つめてしまった。  すると、物凄く嫌そうな顔で俊輔がオレを睨む。 「……なんだよ」 「……え。……あ、いや……あり、がと……」  これは……ありがと、でいいんだろうか。  ……でも、さっきまで誕生日知らなかったんだから、誕生日プレゼントっていうの変だけど……。  誕生日とか関係なく、もともと買ってきてくれてたってこと?  ……何で??  色んな不思議が沸いては、聞けずに消えていく。

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