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13.「初のお揃い」*真奈
「一度お話しようと思っていたのですが」
「はい」
「……もう少し、若と普通の会話は、出来ませんか?」
「でも、俊輔も話さないので……」
「話そうとなさった事、ありますか?」
「ないです……けど……」
言うと、西条さんは小さく息をついて。
それから、オレから少し目を逸らした。
「……若の事は、若に聞いて下さい」
「そうです、よね……」
内心、もう聞かなくていいかなと思いながら、とりあえず頷くと。
ふ、と笑った西条さんは、オレをまっすぐに見つめた。
「…多分、ちゃんと答えると思いますよ?」
……そうかなあ……?
うーん……そんな気、全然、しないけど……。
……やっぱり聞かない方が良いかもしんない。
「真奈さん」
「?」
不意に、すごく近づいてきた西条さんを振り仰ぐと。
手首を掴まれて、軽く持ち上げられた。
「っ???」
な、何だ何だ?
ここまで至近距離で西条さんの顔を見るのは初めてで、かなり焦る。
「こちらはどうされました?」
「え?」
西条さんの視線の先を追うと、軽く掴まれていた手首には、昨日もらったばかりのバングル。
昨日の夜はめられてから、そのまま付けていたものだった。
「あ……コレは……」
……俊輔がくれた、んだけど。
何でくれたかは、いまいちよく分かんないけど……。
「若が今朝同じ物を付けてました」
意味ありげに少し笑って、西条さんは手首を離した。オレは離された手首を何となくそのまま自分で掴む。
ヒヤリとしたバングルの感触と、今の西条さんの言葉に、何となくぼーっとしていると。
「若が誰かと、揃いのものを付けるなんて、私からしたらあり得ませんから」
「……多分、お揃いとかの意味じゃなくて……」
別に、「お揃いだー」とか、喜んで付けてる訳じゃないし。
そう思って口にした言葉に、西条さんはまたふ、と笑って見せた。
「……どんな意味でも、ですよ。純粋にデザインが気に入ったというなら、真奈さんに差し上げる必要はないと思いませんか?」
「――――……」
その言葉に特に言い返す言葉も見つからず、オレはソファに腰掛けた。
西条さんが部屋から出ていってからも、何だかぼんやりとしたまま、そのバングルを見つめてしまう。
「……お揃い、か……」
……人生初で持つ、誰かとのペアが、何で俊輔なんだって感じ……。
なんか、シャレにならない。……なんて思ってしまい、何だかおかしくて、苦笑い。
でもふと、苦笑いとは言え、笑顔の自分に気が付いた。
「――――……何で笑うかな、オレ……」
ぽつ、と自分に問いかける。
本当に嫌だったら、外したっておかしくないのに。
俊輔が居る所では無理にしろ、居ないんだから別に今も付けて無くてもいいのでは、とも思うのに。
「――――……」
……オレは、そこまで俊輔の事が、憎くは、ないんだよな、きっと。
もちろん、こんな生活していたくない。学校も行きたいし、友達とも会いたいし遊びたいし、ていうか、何よりも外に出たいし、それに勉強だってしなきゃ、大学どうすんだよ、ていうかオレ、一体いつまでここにいんだよ、とか、色々考える事はいっぱいあるけど。
しかも一番大事なとこは。オレは、男となんか、毎晩寝たくないって事。 はっきりいえば、もう二度と抱かれたくも、ない。
考えてみれば、俊輔がオレに強いてる事って、かなりヒドイと思うんだけど。
こんな生活を強いてる俊輔の事を、何で、憎んでないのか。
……いまいち、分からない。
「……はー……」
大きなため息をついて。それから、勢いをつけてソファから立ち上がった。
よし! うだうだしてないで、ルークと走ってこよ!
もう既に外は暗くなりかけていたけれど、広い庭には照明も当たるし、問題はない。
オレは、部屋を出て、犬小屋へ向かった。
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