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15.「キス」*真奈

「ルーク、エサの時間だから、小屋に戻れ」  俊輔の言葉。これはもう絶対分かっているんだろう。  また、ワン、と声を上げて、そのまま小屋の方へ向かって走って行った。  可愛いルークが居なくなっちゃって、突然俊輔と二人きりになってしまった空間に、何を言ったら良いのか分からなくて、とりあえず捲っていた袖を戻しながら立ち上がった。   「……泥だらけだな」  近づいてきた俊輔の指がそっと、頬に触れた。 「ルークに乗られて、舐められたから……」 「――――……」  何だか優しい仕草に、戸惑いつつ、そう返すと。  俊輔が。  ……俊輔が。   「――――……え」  俊輔が、確かに。  一瞬だけだったけど。    ふ、と、笑った。  いつもみたいな、皮肉めいた笑いじゃなくて。  何か。とてつもなく、普通に笑って……。  え。 ――――……嘘。   そう、思った瞬間。  頬に触れていた手にぐい、と引き寄せられて、唇が重なってきた。  かと思うと、すぐに覆い被さられるみたいに、深いキス。 「……? っ……ん……!」  広い庭は、外から見られる事はないにしろ、屋敷の窓からは丸見えで。  もし誰かが屋敷から庭を見ていたら、絶対、見えるような場所……。  オレが俊輔の部屋に住み始めて、おそらくあの部屋に来る人達は、この関係を何となく察知してはいるのだろうと予想は出来ても。こんな風に、こんな所でキスされるのは、ものすごく嫌で、オレは藻掻いた。 「……っ……しゅ……っ」 「――――……」 「……部屋、で――――……」 「――――……どうせ皆、知ってる」  さっきの一瞬の笑顔とは違う、いつも通りの皮肉っぽい笑みを唇に浮かべて、そんな風に言う。  その唇が再び重なってくる。  ……そういう問題じゃ、ないし……!  脱出を試みるけれど、うまく押さえつけられてしまっていて、まったく逃れられない。  大体にして、力で勝てない事は、もう嫌って位、分かってる。 「……っン……」  息苦しさに声が漏れた瞬間。 「若」  一瞬で分かった。  西条さんの、声。  ――――……関係を明らかに知られているのが分かっていても。  心臓が、止まってしまうかと思うほどに驚いて、一瞬でうんざり。  見られた……。 「――――……和義……」  俊輔もさすがにキスを解いた。  やっとの事でキスから解放されて、かなりホッとしていると。 「せめてお部屋でどうぞ」  西条さんの声に、俊輔が、ああ、と頷く。  そのまま、視線を背ける俊輔。オレが西条さんを見ると、彼は、苦笑いを浮かべて見せた。  それから一度唇を引き締めて、俊輔に向かってこう言った。 「少しお話があります」 「……あぁ。 真奈、先部屋行ってろ」 「……シャワー浴びてて良い?」 「ああ」  頷くのを確認して、オレは歩き出した。

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