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17.「ムカ?」*真奈

「……真奈……?」  キスが解かれて、名前を呼ばれて、重い瞼を開く。 「夕飯、まだだよな?」 「……え?」  ……こんな時に、何??  ぼやん、と、聞き返すと。   「まだなら、外に行くか?」 「――――……外……?」  外って? そう思っていると。  「何度も言わせンな。 食べに出かけるか?」 「え……あ。うん」  こないだ外には出たけど、暴走族の集会に連れて行かれて、喧嘩に巻き込まれて帰ってきただけだし。  外で食事なんて、ここに来てから初めてだし。普通に外に行きたいし。……というのは、もちろんあったけど。  はっきり言って、もうダルくて出たくない、っていう方が今は、強かったのに。  何か。  ……笑っては、ないんだけど。  俊輔が、珍しく優しい顔をしている気がしたから、断れなかった。  でもそれから中に出されたものを洗い出されて、もうぐったり。  とにかく、全部のコトが終わって着ろと言われた服を身に着けてから、髪をドライヤーで乾かす。  良く分かんないけど、ここに来て初めて「俊輔と食事に行く」なんて理由で外に出る事になった。  疲れ切ってはいたけれど、外で食事なんて本当に久しぶりで、ちょっとワクワク……。 「何か食べたいものはあるか?」  服を着て少し落ち着いても、熱気ですっかりのぼせたままの頭を、窓を開けて冷ましていると、後ろから俊輔の声がかかる。 「ううん。ほんとに、何でも良い」 「――――……分かった」   オレに背を向けて、机の上のスマホに手を伸ばす俊輔の後ろ姿をぼんやりと、見つめる。 「和義? 夕飯、外に出る。真奈も連れていくから車まわしてくれ」  それだけ言うとすぐに電話を置いて、オレを振り返った。   「行くぞ」 「……うん」  なんかこうして、改めて普通に見ると。  俊輔って、本当にカッコイイ人だよな……。  黒のシャツの上からいくつかのボタンを外してて、そこから見えるシルバーのアクセサリーが嫌って位、似合う。  自分の前に立って歩く俊輔の後ろ姿をぼんやりと眺めながら、軽く息を付いた。  そういう事を、客観的に認識してしまうと、ますます分からなくなる。  自分がここに居る、意味が。  女に不自由するなんてアリエナイだろうし。  ……もともと男が好きだったとも、思えないし。  オレを痛めつけるため、とかも、やっぱりなんか違う気がするし。  だからといって、愛されてるとかそんな気がする訳じゃないけど。 「和義?」  ちょうど玄関についた時、西条さんが外から玄関を開けた所だった。 「あ、若……あの――――……」  言いかけた西条さんの脇からひょい、と、突然顔を覗かせたのは、髪の長い女の子。  誰? と思った瞬間。  その子は俊輔の姿を見つけると、途端にぱあっと笑顔になった。 「俊!」  明るい声が、俊輔を呼んだ。 「……|梨花《りんか》?」  俊輔が梨花と呼んだ彼女は、駆け寄ってきて俊輔に抱きついた。 「またお前は、連絡もせずにいきなり……」  俊輔は言いながらも、別にその少女を離そうともせずに、抱きつかれたままそう言った。 「だって。ここんとこずっと俊に会ってなかったから。会いたかったんだもん!」  甘えるように言って、俊輔にすり寄る。    ――――……ムカ。 「――――……」  ん? ……ムカ?  オレは思わず口を手で覆った。  ……何でムカ、なんだ? 関係ないじゃないか。  俊輔が誰にくっつかれてデレデレしてようと……。  そこまで考えて、デレデレなんて表現が出てくること自体、自分がかなりおかしいことに気づく。

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