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18.「嵐みたいな」*俊輔
「ねえ、俊。しばらくここにいていいでしょ?」
甘えた声がよく似合う。
サラサラしたロングヘアーに、華奢な体つき。顔もかなり整ってる。白い肌に大きな瞳が目立つ綺麗な子。
ぴったり抱き付いてるを、俊輔は優しい仕草で少し引き離した。
「構わねえけど……そんなかまってやれねぇからな」
「うん。俊が忙しいのは分かってるもん。 また前みたいに夜一緒に居られれば♪」
前みたいに、夜一緒に ?
その言葉に、心の何かが、どうにもひっかかるけど。
「そういや……お前大学は?」
「うん、ここから通うから大丈夫」
「ったく……おじさんらは知ってんだよな?」
「うん、俊のとこに行くって言ってきた」
「あ、そ」
ふ、と苦笑いで、俊輔は梨花を引き離した。
「和義、おじさんに聞いて了承済みなら、梨花の部屋を用意してくれ」
「いいわよ、俊の部屋に泊まるから」
「ダメだ。和義、頼む」
俊輔の言葉に、西条さんは、はいとだけ返してる。少し不満げな梨花は、俊輔の腕をくいくいと引いた。
「ちゃんと言ってきたってば。じゃなくて、ねえ、どーして? 部屋一緒で良いでしょ?」
「だめだ。――――……梨花、夕飯は?」
「俊と食べれたら、と思ってたの。良かった、今日は俊、帰るの早かったんだ。 ね、どっか行こ?」
「……ああ」
少し間を置いて、俊輔はオレを振り返った。
「真奈。……出かけるの、無しだ」
「うん」
……別に、良いけど。
俊輔は、西条さんに、オレの食事を用意するようにと告げた。
「俊、この人は?」
梨花がオレを見つめながら、俊輔を振り仰ぐ。
「ああ……」
一瞬言葉に詰まった俊輔に梨花が首を傾げた瞬間、西条さんが助け船を出す。
「真奈さんです、梨花さん。事情がありまして、今このお屋敷で生活されてます」
「……ここで?」
少し怪訝そうに眉を寄せた梨花の腕を、俊輔が掴んだ。
「和義、とりあえず飯食いに行ってくるから、先におじさんに連絡して、オレに連絡入れて。梨花が嘘ついてたら、食事の後、タクシーで送り返す」
「えっ 嘘なんてついてないよ」
「お前、以前家出みたいにココ来ただろ」
「俊ってば、今度はちゃんと言ってきたってば」
文句を言いながらも、楽しそうにじゃれてる梨花を、俊輔は引っ張りながら屋敷の外へと消えていった。
何だか、突然起こった嵐みたいに、いきなり騒々しくなったと思ったら、急に静かになった。
ただ呆然。
「……真奈さん?」
後ろから呼ばれて振り返ると、西条さんは苦笑いを浮かべながら説明を始めた。
「椿 梨花さんです。若と同じ年の、遠い親戚にあたる方です――――……今のでお分かりだと思いますが、若の事が大好きなんですよ。たまにいらっしゃるんですが、前回の時は、ご両親には行き先も告げずに家出同然でこちらに来てまして。ですからしばらくはこちらに来るのは禁じられていたんですけれど……」
「親戚……」
「ええ。彼女は幼い頃からずっと若のお嫁さんになるんだと言い続けてます。何となくおわかりでしょう?」
「そう、ですね……」
俊輔の事が大好きなのは、とにかくよく分かった。
「とりあえず彼女が居たら真奈さんとは外には行けないと、早々に諦めたんだと思います。また次回付き合ってさしあげてください」
「…………」
別に。……どうしても行きたかった訳じゃないし。
「真奈さん、夕飯は何がいいですか? すぐに作らせます」
「……ほんとに、なんでも良いです」
「分かりました。お待ちくださいね」
「はい」
西条さんの優しい言い方に、微かに笑んで頷きながら部屋に戻った。
部屋のドアを閉めて、そのままドアに背をついて寄りかかり、ため息をついた。
「――――……」
俊輔の、お嫁さんになりたい、ね。
……ふうん。
すごく、綺麗な子だし。
――――……ていうか。
夜一緒ってことは……そういう関係ってことだよな。
……親戚、っても、遠いなら全然関係ないのか。
でも、あの子の父親のことも知ってるっぽい親戚と……って。
……まあオレとそうなってる段階で、俊輔にはそーいう倫理とか、そんなものなさそうのは分かってるし。
ていうか、あの子が望んでるんだろうから、別にそこは、自由な関係ってことでいいのか……。
……って、オレには、関係ないじゃんね……。
「――――……」
プルプルプル。
頭を軽く振って、ゆっくり扉から離れると、ソファに座ってテレビを付けた。しばらく眺める。
――――……つまんない……。
ぼーっと、ソファの背もたれに沈んで居ると、目の前のテーブルにバングルを見つけた。
お風呂に入る前に外したものだった。
「――――……」
手にとってぼんやりと眺める。
何だか、落ち込んでるらしい自分の気持ちが納得行かなくて、ため息をついた。
外に出れると思ったのに、出られなくなった、から。
……落ち込む理由なんか、それしか、ないよな。
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