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19.「S傾向」*真奈

   何となく、手首にバングルをはめて、そのままぼんやりとテレビを眺める。  と、不意に部屋の扉が開いて、俊輔が入ってきた。後ろに彼女の姿は無かった。 「俊輔? あれ、まだ出てなかったの?」 「あぁ、今から行くけど……真奈」 「……?」 「今度また外に連れてく。 梨花、さっさと追い返すから」 「え。……あ、うん」  戸惑いながらもとりあえず、返事だけはした瞬間。 「しゅんーーー!どこーー!」  屋敷に響いてるんだろうなーという位、大きな声が聞こえた。 「――――……寝てていいぞ」  ため息を付きながら俊輔が出ていく。  扉が閉まってすぐ、ぽーーーとしていたオレは首を傾げた。   「……今のって」  今度また外に連れてく。  俊輔……それだけ言いに、来たのかな。  ――――ほんと、意味わかんない。  コンコン。 今度はノックの音。返事をすると、西条さんが入ってきた。 「もうすこしで食事ができますから」 「あ、はい」 「たった今、若が外出されました。 遅くなりそうだとおっしゃってました」 「はい」  ……さっきも、寝てていいぞとか、言ってたけど……。  ていうか。部屋に戻ってくんのかな?  ……夜は一緒にって、あの子、言ってたし。  今日は、俊輔と寝なくてすむのかも、な。今日ていうか、しばらく。彼女が居る間は。  ……らっきー、だよな……。うん。  そんな風に心の中で呟きながら。 何となくぼんやりとしながら。テレビの画面を目に写す。  その後運ばれた夕飯を少しだけ食べて。  ――――いつの間にか、ソファでウトウトと眠り始めていた。   ◇ ◇ ◇ ◇ 「――――……な」  呼ばれた気がして、眉を寄せる。 「真奈」 「ン……?」  今度ははっきりと、呼ばれた。  照明の眩しさに耐えつつ目を開けると、俊輔が上から見下ろしていた。 「何でこんなとこで寝てる?」 「――――しゅん す け……? あれ……?」  起き上がってソファに座り、寝る前の事を思い出して、思わずそう声が出てしまった。 「あれって、何だ?」 「……戻って、きたんだ?」  その言葉に、一瞬怪訝そうな顔をする俊輔。 「当たり前だろ」 「うん…… だけど」  何と言えば良いんだか分からず、そこで言葉に詰まっていると、俊輔はふ、とオレをまっすぐ見つめた。 「梨花と過ごすとでも思ってたのか?」 「――――……」  肯定も否定もせずに、俊輔を見上げると。  俊輔はふ、と少しだけ笑った。 「まあ……確かに昔は、んな事もしてたけどな」  あ、やっぱり。  まあ、やってないと言われても、全然信じられないから、いっそすっきりするけど。……って、だから、何からすっきりしたいんだ、オレは。  心の中で、自分の思考に突っ込みを入れていると、俊輔がオレを見つめた。 「真奈、さっきのままか」 「……?」  着ていた上着を脱ぎながら、俊輔が「風呂行くか?」と言う。  また、一緒に入るって事? そう思うと、ちょっと抵抗は感じるのだけれど。  ……むやみに逆らうこともないか……。 どーせ、ムダだし。 「うん……」  そう返して、ソファから立ち上がる。時計に目をやると、二十四時前。  バスルームに向かおうと歩き出した瞬間。  「真奈」と名を呼ばれ振り返る。 「ん?」 「――――脱げよ」 「……え?」 「そこで。脱げ」  なんか嫌な感じでニヤニヤしてる俊輔。  はあ、と心の中だけで深くため息を付いて。バングルをテーブルの上に置いた。 「……全部?」 「ああ。 脱ぎな」  言いながら俊輔はソファに腰掛け、まっすぐにこっちを見つめた。  何か。  こういうとこは、ほんと全然分からない。  俊輔って、もしかして、彼女とかにもこういうことさせる人なのかな。  嫌がらせなのかと思ってたけど。  ……いやどうだろ。やっぱり嫌がらせなんだろうか。  いやでも、もともと、そういう趣味が………うん。  S傾向は顕著だもんな……。 

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