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28.「拒絶」*真奈

 その夜遅く帰ってきた俊輔は、最高に機嫌が悪かった。  寝ることも出来ず、ベッドに座ってうずくまっていたオレは、その顔を見て、最悪だ、と心の中で呟いた。  スーツ姿の俊輔は、ネクタイを緩めながら部屋に入ってきて、オレが起きている事に気付いて一瞬眉を顰めて、それからため息とともにこう言った。 「……梨花、お前には何て言った?」  帰ってきて開口一番、そう言われて、その不機嫌の理由も察しが付いた。  恐らく、俊輔も、梨花に責められたんだろうと、何となく分かった。  そしてそれと同時に、心の中に、梨花の言葉が、甦った。  今日、ずっと、頭から離れなかった、軽蔑の視線と、投げつけられた言葉達。  ……胸が痛くて――――……。  ぎゅ、と目を閉じた。 「あいつ、連れてったパーティの間もずっと――……こっちの話はいい。 あいつ、お前になんて言った? 和義が心配して」 「彼女が……言ってたのは……正しいと、思う」  俊輔の言葉を切ってそう言うと、俊輔はムッとした表情を見せて。  それから、オレの座っているベッドに近づいてきた。 「……だから、何を言ったんだよ? 叩かれたって……」 「――――……」  言いたくない。  ……変態呼ばわりされた、なんて、口にしたくない。 「真奈?」 「――――……」  オレは顔を上げて、自分を呼ぶ男の顔を見つめた。 「真奈……? 口、切ったのか?」  ゆっくりと手が伸びてきて、今朝梨花に叩かれた頬に、触れた。  瞬間。   今日一日で限界まで膨れ上がっていた、自分と俊輔への嫌悪感が――――……爆発した。   「…… 嫌だ……ッ!」 「……何だ?」  手を振り払い顔を背けると、俊輔の不愉快そうな声が聞こえた。 「―――……オレ……もう、ここから出たい……!」 「――――……」  「もう……抱かれたく、ない。 もうやだ……っ大体……オレ、オメガでも、ないのに…… 男同士で、気持ち悪いんだよ……!」 「真奈」  低い声で、俊輔が遮る。   今までだったら、オレ、ここで、止めていたはずなのに――――……歯止めが利かなくなっていた。   「何でオレの事抱くんだよ……! 俊輔なら他にいくらでも相手、居るだろ!」 「……黙れよ」  俊輔の声が、一段と低くなる。  やめた方が良い、心のどこかで危険信号が点滅しているのに、止めることが出来なかった。 「……っ……他の事なら何でもするから……だからもう、ここから、出してよ……! ……もう、俊輔と寝たくない……!」  マズイと分かっていながらも、止められなくて言い切った瞬間。  腕を掴まれて、有無を言わせない力で、ベッドに倒された。  背をベッドに沈められて、焦って起き上がろうとした所を、上から押さえつけられる。  しかもかなり力任せのそれに完全に、身動きが取れない。    きつく瞳を閉じて、咄嗟の目眩と頭痛を堪えている隙に、上から完全に、押さえ込まれた。 「や……やだ……!」  それでも何とか逃げようと藻掻いた手首を一括りにされて、上で押さえつけられた。 「――――……いい加減に しろよ……」  怒ってるのが、分かる。   「……ッ……や、だよ、もうっ…… 離し……!」    ぎり、と手首を押さえつけられて、痛みに一瞬詰まる。  

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