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30.「今までは」*真奈 ※

「……っや……」  下着ごとズボンが剥ぎ取られて、きつく瞳を閉じた瞬間。  俊輔が、チッと舌打ちをした。 「……お前の顔、見たくねえ」  言った俊輔に、体を反転させられて、顔を枕に突っ伏した。  そのまま腰を引かれて上げさせられて、強張る。 「……や……!」  パチン、と何かの蓋の開く音がして、オレの後ろに何かが無理矢理押し込まれた。突然の異物を拒むそこを無理矢理開かれ、その何かが、中で液体を出したみたいで。中に冷たいものが流れ込んでくる。  ものすごい悪寒に、鳥肌が立った。声すら、満足に出てこない。 「……っ…… ん……!」  最初何だったか分からなかったけど。  ぞわ、と奥から湧き上がってくる感覚と、かぁっと異様に熱くなる体。ぐらりと目眩がして、息が上がる。  飲まされたものも、後ろのも、そういう薬だと、体で思い知る。 「……あ……や、だ…… しゅ…………」 「……黙ってろ」  括られた中で、指をぎゅ、と縮ませる。  変な感覚で、後ろが疼く、みたいな……気持ち悪い。  悪寒が背筋をめぐって、体が勝手にびくりと震える。 「……ん…… っ ……ん……」  すぐに後ろから俊輔があてがわれて、いきなり深く貫かれた。   「……っ…… っ……ゅんすけ……や……」 「……黙ってろって言ってンだろーが」  なんだか、チカチカする眼前にきつく瞳を伏せて、思わず名を呼んだ時、低い声が聞こえて。 「――――……っ? ……やだ、や……ンン、ぅ!」  後ろから何かが口に回されて、そのまま頭の後ろできつく縛られた。  くぐもった悲鳴以外、何も発せられない状態に――――……怖くてたまらなくなる。   「……んっ……ぅン……!」  深く突き上げられて、ぶる、と頭を小刻みに揺らす。  変な薬は使われてるけど、全然慣らされてもいないから、されてる痛みに、体が強張る。     頭の後ろで縛られた布のようなモノが俯いた顔の横に垂れてきて、それが俊輔のしていたネクタイだった事に気付いた。それのせいで、叫ぼうにも、許しを請おうにも、声が、出せない。  ……声が出ても、許してくれるとは思えないけれど。 「――――……っ……ンん!……ん……!」  何度も、ただ深く抉るだけ。  快感なんかかけらもなかった。 「……逃がすと、思ってんのかよ?」 「――――……っん……っ……ぅッ……」  縛られた手首ごと体をすこし引き上げられて、近づいたオレの耳元で囁いた。   「どうしてもここから出てぇっつうなら……男好きの変態にでも売り渡してやろうか……」 「……っ ……」 「それとも、族の奴らとヤレるように、どこかに繋ぐか? お前みたいなやつ好きなのも、 居るだろ……」 「…………ッ……」  囁かれる冷たい声と内容に、寒気がする。  けれど同時に。  俊輔じゃない奴となんか、絶対嫌だ。  それがぱっと頭に浮かんだ自分に驚いて、愕然と、した。  意味も分からないまま、涙がこぼれ落ちて、俯いた。   「……っ……ん、ぅ……!」  ベッドにまた頭を押しつけられて、後ろから激しくされて、揺らされるたびに、涙がこぼれ落ちていく。   「……ん……ん、……ぅ……ン……!」    ……痛い。   ――――……いつもみたいな快感なんか、微塵もなくて。   俊輔が動くたびに、ヒドイ痛みが走る。  手首も、痛い。 「……っ……ンゥ……」  この感覚が酔いなのか薬のせいなのか、とにかく色々麻痺してる。ぼんやりしてて、きっと話せても、呂律が回らないかもしれない。  気持ちよくなる類の薬なのかなと思うのだけどでも、なんだか、全然快感は無くて。  痛みの感覚だけが強烈に、はっきりとしていて。  どんなに堪えても、喉の奥から悲鳴が漏れる。    こんな風に抱かれて初めて気付いたのは。  今までは、しがみつける体勢で、俊輔は抱いててくれたんだということ。  それから……極力痛くないように、やっててくれたんだということ。  ただ犯そうと思うのならばこんな風に、無理矢理でも出来る。  傷つけようと思えば。痛めつけようと思えば、こんな風にいくらでも出来るのに。  ――――……そうはしていなかったんだと、いうこと。    優しかったその行為に――――…… 今更、気付いた。   「――――……ッん、ぅ……ッ……」  痛みと酔いで何度か気が遠くなって。すると、酷く貫かれて無理矢理意識を戻させられて。  どれくらい、続くのかと、最初は終わりを待っていたのだけれど。  後の方はもう、諦めていた。    本当に、もう、殺されるのかなと、思った。  それだけ。……怒らせたんだと。  だから。  翌朝、目覚めた時は、不思議だった。  ――――……ああ、生きてるんだなあ……と、驚いた。  

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