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第三章 1.「違和感」*真奈
目を開けて、まず気付いたのは、天井が俊輔の寝室とは違うということ。
ここ、どこだろ……?
少し体を起こしたその時、西条さんが部屋に入ってきて、オレを見ると、少し瞳を和らげた。
「良かった。 目が覚めましたか……気分は悪くないですか?」
「……はい」
返事をしながらも、部屋を見回す。
「水を飲みますか?」
ちゃんと起き上がって、差し出されたコップを受け取った時、ふと、手首に巻かれた包帯に気付いた。
バスルームで気を失ったんだっけ…… 治療ももう終わったんだ……。
「オレの事、西条さんが運んでくれたんですか?」
「はい。倒れてるのを見た時は本当に驚きましたけど……水をここに置きますから、好きな時に飲んで下さいね?」
ふ、と苦笑いを浮かべて、西条さんは水のペットボトルを、サイドテーブルに置いた。
この人でも、驚くことがあるんだ。なんて、思いながら、水を飲みこむ。
「何か食べれそうですか? 栄養剤の点滴はしてますが、口から食べた方が体力の回復には良いと思うんですが」
「……今はいいです」
……何も、食べたくない。
首を横に振ると、仕方なさそうに西条さんは頷いた。
「明日はお粥をお持ちします。この部屋は本来客室なんです。あちらのドアがトイレや洗面所、バスルームもついてますから、部屋の外に出なくても用は足ります。でもまだ今日はシャワーなどは控えてくださいね」
「……はい」
「今日は若をここには連れてきません。点滴には安眠剤も入ってますし、とりあえず良く眠って下さい」
「……え?」
――――……そんなこと、出来るんだ……。
少し驚いて、西条さんを見上げると、西条さんはふ、と笑んだ。
「こんな事をしたんですから、それ位は若にも聞いて貰いますよ」
「――――……」
「気分が悪くなったり、何か食べたいとか用がありましたら、このボタンを押して下さい。今日はもうずっと屋敷に居ますから、すぐに来ます」
頷くと、西条さんは、部屋を出ていった。
「――――……」
良かった。
今日は、俊輔に、会わなくて済むんだ。
深く息を付いて――――……そして、目を閉じると、そのまま、あっという間に眠ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇
「…………」
翌朝。随分眠ったせいか、カーテンから漏れる朝日で自然と目が覚めた。
俊輔と、たった一日会わなかっただけで、ものすごく離れているような気がして、何だか、おかしかった。
毎晩毎晩、必ず一緒だった人間が、たった一晩居ないだけで。
相手が、どんな相手かは別として――――…… やっぱり、何だか、違和感がある。
こんな風に違和感を感じるくらい側に居て、それでもあんな関係しか、持てていないけど……。
そんな風に思って、ため息を付いたその時。
そっとドアが開いて、オレが顔を向けると、トレイを持った西条さんが入ってきた。
「おはようございます――――……自然に目が覚めましたか?」
「……おはようございます。 はい、何となく……」
ゆっくりと起き上がると、西条さんは少しだけ微笑んだ。
「体調が少しは良い証拠ですね。 お粥を持ってきました。少しでも良いですから、食べて下さい」
「……ありがとうござます」
トレイごと渡されて、受け取る。
正直、あんまり食べたくなかったけれど、布団の上に置いた。お粥とフルーツとスープ。
「今日若が戻られたら、お連れしても構いませんか……?」
「――――……」
俊輔を思い出した瞬間。
指先が震えて……トレイの端を、ぎゅ、と握りしめてそれを隠した。
すると、考え深げにオレを見つめていた西条さんは、小さく息を付いた。
「……分かりました。今日もお連れしないでおきます」
「……」
「ですが、明日は連れてきます。若も心配されてますし、あんな事はもうしないと思います」
「――――……」
何でそんな事分かるんだろう。
西条さんは、縛られて、あんな風にされるなんて、そんな経験、ないのに。
俊輔がどれだけ怖かったかなんて、多分、半分も知らないのに。
何も言えずに、ただ俯く。
「……今までに見たことがない位、落ち込んでますので……。まあ全部、若の自業自得ですが」
最後、ものすごい苦笑いを浮かべながら、西条さんはそんな風に言った。
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