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11.「遠のく」*真奈

「なあ、アンタ」 「……?」  立てた膝に顔を埋めて突っ伏していたオレの腕が、誰かに掴まれた。    「具合悪いの?」  そんな風に呼びかけられた事を怪訝に思い、思わず泣いてるのも忘れて、振り仰ぐ。目の前に居るのは、髪を赤茶に染めた、一目見る限りお世辞にも柄の良くない若い男。オレの顔を見て、硬直していた。   「……何?」  息を呑んだままの相手に聞くと。 「……何って……そんな泣いといて、何って言われても……」 「あ……」  泣いてる事、気にしてられなかった。……やっぱ、オレ、おかしいな。ぼーっとしてる……。そう思いながら、目を拭い、再び俯いた。 「……ラリってんじゃねえよな? 具合悪いんなら拾って来いって言われたんだよ」 「……拾って……?」    あんまりな物言いに、眉を寄せ、相手をぼんやりと見つめる。  何だか視界が白い。周りのネオンが、勝手に目に飛び込んできて、世界を白くしてしまっているみたいだった。   「さっきあんた絡まれてたじゃん? そん時オレ、見ててさぁ、様子おかしかったから、うちのアタマに話したらさ、具合悪いなら死なれても困るから連れて来いってさ」    アタマ……。ろくなグループじゃなさそう。  こんな具合悪い時に、そんなとこ、連れて行かれたくはない。   「……大丈夫。休んでるだけで、死なないから……目障りかもしんないけどしばらく放っといて欲しいんだけど……」  昔なら、こんな柄の悪そうな奴も。  さっきの連中にしたって。 多少なりとも怖さや、関わり合いになる厄介さを感じたと思うんだけど。    ……俊輔以上に怖かったり厄介な奴が、そうそう居るとは思えなくて。  何だか、そういう感覚が麻痺してしまってるみたいだった。   「なあ、一緒に来てくんない? 別にアヤしいトコじゃねえからさ。うちのアタマ、すげえデキた人だし」 「……悪いけど……一人になりたいから……」    首を振って、また頭を伏せる。  しばらく一緒にしゃがんでた男は、仕方なさそうに立ち上がって、消えた。  もう……今は、誰とも、会いたくない。話したくもない。  手首の痛みに、何となく目を向けると、包帯に滲んだ血が、より濃くなっていた。   「……痛た……」    少し熱ありそうだし……動いたからか、かな。  はあ、と息をついて、目を伏せた。 「……」    ……俊輔。  ……俊輔……。  今頃、何、してんのかな……。オレが居ないことには、まだ気づかないかな。  西条さんも帰ってないだろうし。まだ、オレが居ないこと、誰も知らないだろうけど……。  気づいたらどうするんだろう。  面倒くさいって言って、終わりかもしれないけど。  少しは……探すのかな。どうだろう。探さないか……。  ……って、探してほしいのか、オレ。……そんなはずないよな。せっかく、逃げられたのに。  さっきから、頭の中には、俊輔のことしかなくて。     自分から離れた俊輔の事を、なぜこんなに鮮明に思い出すのか。  泣きたい気分が何故なのか……。    はっきりしない意識の中で、浮かぶのは俊輔の、顔だけで。  もうどうなっても良い、なんて。  せっかく逃げられたのに、こんなになげやりな感じで思ってしまうのは、何でなのか。  何だか、どんどんぼんやりしてきて。  気が遠くなってきて。だんだん、白く。 考えられなくなっていった。

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