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26.「和義と凌馬」*俊輔

「おっと……真奈ちゃん?」     凌馬は中に入らず、そのままそこに立ち尽くして、どうやら支えたらしい、真奈の名を呼んだ。    「どした?」 「凌馬さん、 あの……?」    ……真奈の、声が聞こえた。  久しぶりに、まともに聞く、真奈の声。    「……ああ、殴ったのはオレ。 少し位痛い思いさせねえとな」    はは、と笑いながら、凌馬がオレを振り返る。  眉を顰めて…視線を逸らす。  そのまま、真奈を、ソファに寝かせるのを後ろから見ていると。  ……まともに立てないのかと。  ――――……自己嫌悪しか浮かばない。    凌馬が少し体を下げて。やっと真奈と視線が合うと。  真奈が、少し震えた。 「大丈夫だよ、こいつ。もう落ち着いてるから」  凌馬がそう言うが、真奈は固まってる。 「とりあえずオレは一回出る。すぐそこに居っから。……大丈夫だよな?」  凌馬がオレに言うので、頷く。 「少し話してやって」  真奈に向けてそう言った凌馬に肩を押されて、少し真奈に近づいた。      ……真奈。    下から、恐る恐ると言った態で見上げてきてる真奈。  思っていたよりは、普通の状態に、ほっとしながら、何だか きょとんとしてる真奈を、黙って見つめる。     ……顔をちゃんと見るのが、久しぶりだ、と、ただそう思った。  そう伝えると、真奈も、頷く。 「……本当に 無事なんだな……?」  さっき、一気に冷え切った血液は……嘘だと聞いても尚、冷えたままな気がする。真奈が頷いたことで、ようやく、少しだけほっとした。  どれくらい熱があるのかと額に触れようとしたら、真奈が震えた。仕方ないと思いつつも、こんなに怯えさせてしまったことに、胸が痛む。  真奈の状態を確認すると……まあ分かってたけど、体調は最悪。  熱も高いし、傷も痛む。まともに歩いていられない。  全部、オレのせいだと、分かってる。  だから、謝った。  ――――思うと、あまり人に謝った記憶がない。  今思うことを、全部そのまま、言ってみた。  何だかすごく驚いた顔で、オレをじっと、見ていた真奈は。  許せ、と言った時。きょとんとした。瞬きを繰り返したと思ったら。  それから。……何を思ったのか、ふ、と笑んで、頷いた。  どうして笑うんだろう。  今までで一番ひどいことをした気がする。殴り合いとかそんなんじゃなくて、完全に、ただの一方的な暴力。  あんなことをした相手に。手が触れそうになるだけで、びくついてる相手に。  「許す」と言って、わずかだとしても笑って見せる真奈が、オレにはよく分からなかった。     ◇ ◇ ◇ ◇         車の中で、途中から眠り始めた真奈を、屋敷について抱き上げた。  全く、目を覚まさない。     そのまま部屋に戻って、真奈をベッドに寝かせた。  少し見下ろした後、寝室から離れてソファに腰掛けると、小さくノックをして、和義が入ってきた。    「真奈さんは あのままお休みですか?」 「ああ……起きそうにない」   「何か、冷たいものでも、お飲みになりますか?」 「……ああ」   「すぐ持ってきます」 「和義」    立ち去ろうとした和義を呼び止める。   「はい?」  すぐに足を止めて振り返った和義を、ソファ越しに少し見上げる。   「……何でお前も、凌馬も……真奈のことでそんなに怒るんだ」 「……は?」    不思議そうに首を傾げる和義に、思わず苦笑を浮かべる。   「……今回、思った。真奈に何かすると、お前ら二人が黙ってねえんだって」  そう言うと、和義は少し黙った後、微笑した。    「私は若のことを考えてのことです。若にとって、彼が良い存在なら、大事にしますし……」 「……それだけじゃねえだろ。お前、オレに逆らって、真奈を別の部屋に隠したじゃねえかよ」 「若……」 「凌馬だって、真奈を逃がすって思ったって、言ってたぞ」 「……そうなんですか」  和義は、苦笑いして、何も言わない。  黙って見つめていると、仕方なさそうに口を開いた。    「……彼には泣いたり悩んでたりしてるよりも、笑っていて欲しいと思います。多分、それは若と同じです」 「オレがいつそんなこと言ったンだよ」 「おっしゃらなくても、分かりますけど。多分、凌馬さんも、若の気持ちが分かってるからこその、色々だと思いますよ」    一瞬返す言葉に詰まると、また、ふ、と笑われた。  

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