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27.「らしくない」*俊輔

 考えてみると、和義がこんな風に笑うのを見るのが、最近になって急に増えた気がする。真奈の影響だろうか。それとも。……オレが真奈のことで、和義と話す機会が増えたからか。  ……今まで、和義とちゃんと話をしてきていなかったかもしれない。  そんなことにふと気付いた。   「和義と、ちゃんと話してるの……最近か、オレ……」 「……そうですね」 「……」 「長い反抗期かと思ってましたから、大丈夫ですよ」    クス、と笑う和義に、何だかバツが悪くて視線を逸らした。 「……ついでに話していいか」 「もちろん。 何ですか?」   「……さっき迎えに行く時……真奈がどうしても嫌だというなら、ここから出してやろうと、思ってたんだ。元気になったら」 「……」 「……顔を見たら、それも出来ねえと、思った」 「若……」   「つか……オレ、ほんと、何なんだろうな」    ふと、俯く。   「らしくねえよな」 「……小さい頃の若は、そんな感じでしたよ」    言われた言葉に思わず一瞬固まって、大きく息をついた。   「そんな感じって何だよ……」 「……欲しいと思ったものは、泣き喚いて欲しがりましたから。いつからか、早々に諦めるようになった気がしますけど」    小さい頃のことを知られているのは、こういう時、分が悪い。  もう一度大きくため息を付いた。   「だから……ガキん頃と比べんなって、言ったろうが」 「……ですね」    和義は一瞬視線を落として、それから再び視線を上げた。    「最近のあなたは、今までの若らしくはないですが……本当の若らしいと、私は思ってますよ」 「あ? 何だ、それ……」    怪訝そうに見上げたオレに、和義は首を振って見せた。 「いえ…… 今のは忘れてもらって構いません。 若」 「……?」    少し口調の変わった声に、黙って和義を見やる。   「これから、どうなさるおつもりですか?」 「……」 「真奈さんのことです。……すぐに、とは言いません。ですが、近い未来ではなく、遠い未来のこと。少し、考えてみて下さい」 「……分かった……いや……分かってる」  頷くと、和義はふ、と視線を和らげ、それきり何も言わなかった。  遠い、未来。 ……否、そう遠くはない未来。  父の跡を継ぐ自分。真奈のことを父が許すはずが無い。    女なら、人のことは言えない父だけれど、ベータの男では話が全く違う。    いつまで、真奈と居られるのか。  ……そもそも、閉じこめておいていい訳がない。    元気になったら。外に出してやらねえとだし。  いつか離さなければならないなら、早いうちにとも、思う。    「……とりあえず飲み物をお持ちします」  言って、和義が部屋を出ていった。     ゆっくりと立ち上がって、真奈の寝ているベッドに静かに腰掛けた。  そっと、額に触れる。……熱い。 吐く息も、熱いのが、分かる。       それでも…… 無事に、ここに戻せたこと。  部屋に、真奈が居ること。      「……真奈……」        さっき、真奈に触れた時。  ……どれだけ嬉しかったか、知れない。      真奈がここに戻ることを望んでいないのが、分かっていても。  真奈にここに居て欲しいと、自分がどれだけ望んでいるのか、思い知らされた。     そっと触れて、見つめる。     いま感じるこの気持ちを、何と表すのかはよく分からない。  けれど、大事でたまらないのだけは……嫌でも、分かる。      今度、目が開いた時。  ……真奈は、どんな表情で、何と言うのか。    目を閉じている真奈を見ている方が穏やかで楽だけれど。  やっぱりこの目が開いていて欲しい。  まっすぐな瞳で、見つめられたいと、思ってしまう。 「――――……」      そっと髪の毛を掻き上げさせて…… その額にキスを、した。       そんな、らしくなさすぎる、自分の行動に。キスしてしまってから改めて気付いて。  真奈から手を離すと、落ち着かずに、立ち上がり、少し離れる。      「若?」    部屋の真ん中で立ち尽くして居たオレに、戻ってきた和義が不思議そうな表情を見せたけれど。  特に何も答えられないまま窓際まで移動して、真っ暗な空を見上げた。        いくつか光る小さな星を目に映して。  それから、ため息とともに、瞳を伏せた。        

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