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第四章 1.「抱き締められて」*真奈

「……?……」    薄暗い部屋の中、目を覚まして、自分の居場所を考える。  ほんの二か月位だけど、かなり見慣れた天井が、今自分がどこに居るのかを思い出させてくれた。     ……俊輔の部屋、だ。  オレ、戻ってきたんだ……。     途中、車の中で眠っちゃったんだ……。記憶、全然無い。  運ばれて、ここに居るんだろうけど、その間全く気づかずに寝てたのか、オレ……。  まだ、暗いし。何の物音も、しない。……すごく、静か。  ずいぶん眠った気がするけれど、きっとまだ、真夜中かな……。      ……俊輔は……?  今更な事に気づいて、ふ、と視線を横に流す。    ……? 前が見えない。視界が、すごく狭い気がする。   「……真奈?」    すぐ近くから、俊輔の声。  ふ、と声の方に目をあげると、思ったよりもかなり近くの俊輔と目があった。    「……どうした?」  何だか……この体勢って、まるで、腕の中に居るかのようで、オレは完全に、固まった。  肩を抱いてるみたいにしてた、俊輔の手がオレの額の冷却シートをはがしてから、直に触れた。 「……まだ熱いな……」  静かな声で言ってから、俊輔は枕元に置いてたらしい新しい冷却シートをオレの額に貼った。冷たくて、少し肩を竦める。 「……何時?」  声が掠れる。 「……二時半だな」 「……起き、てたの……?」  何だか喉が張り付いてるみたいで、声がうまく出ない。  すると、俊輔がまたゆっくりと動いて体を起こすと、サイドテーブルから水のペットボトルを手に取った。   「水飲めよ。声、掠れてる」    ありがと、と受け取った。起き上がって、一口水を口に含んだ。    「……?」  じっと見つめられてる事に気づいて、ふ、と隣に座ってる俊輔に視線を向けると。  ゆっくり手が伸びてきて、ふわりと頬に触れられた。    そのまま数秒、停止。   「――――……」  ……何だ……これ。  どうして良いか分からずに、ペットボトルを握りしめたまま固まってしまう。     「……」  しばらくしてようやく手が離れる。何も、言わずに。  困って、もう一度水を飲んで、蓋をしめた。 「……もういらないか?」 「ぅん」    頷くと、手の中のペットボトルを受け取って、サイドテーブルに置く。 「トイレは?」  全然飲んでなかったからか、行きたくはないので、首を横に振る。  すると、俊輔に手をとられて、そのまま引き寄せられたまま、寝転がって……。  早い話、ベッドの上で、抱き締められた。   「……寝ろよ」 「……う、ん」    ただ抱き締められて眠るなんて、当然だけど、今までそんなことは無い。  いつもほとんど気を失うみたいに眠りについて。朝目覚めると、俊輔はいつも出かけた後。  考えてみると、俊輔の寝顔を見た記憶も、ほとんど無い。     「……俊輔……」 「……ん?」   「……あの……」 「……ん」      「……黙って出ていって…… 怒って、ないの……?」    俊輔の態度を見てると、ただ心配していただけに、見える。  でも普通は怒るとこだろうと思うし。俊輔なら、余計怒りそうなのに。     「オレ、怒ってるように見えるか?」 「……」    逆に聞かれて首を横に振った。    ……再会してからもずっと、怒ってはいないように見える。  でも、普通は、勝手に逃げ出したんだから。  ……怒らない理由がよく分からない。  いっそものすごく怒ってた方が、その理由も分かりやすい、というか……。     「……お前にひどいことしたのは分かってる」 「……」    「……オレが怒るトコじゃねえだろ」      なんだか、頷くことも出来ず、ただ黙っていると。  俊輔は軽く、息をついた。     「このことで、お前に怒ったりは、しねえよ」 「――――……」 「いいから、寝とけ……」    穏やかな声で、そう言われて。    もうそれ以上聞きたいことも無くて、ただ頷いた。  そのまま瞳を伏せる。      抱き締められて眠る、なんて。  男である以上、普通は無いよなぁ、なんて思うけど。  ……抵抗する気も、なぜか全く起きない。    最初は、慣れなくて、多少寝づらくはあったけれど、次第に眠気に襲われて。  …… いつの間にか、また、眠りについていた。        

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