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5.「母親」*真奈

 西条さんが持ってきてくれたお酒を飲み始めた俊輔が、オレを見て「座れよ」と言った。仕方なく俊輔の正面に座ると、西条さんはオレの所にはお茶を出して、部屋を出て行ってしまった。 「……いただきます」  そう言って、食事を始める。  ここに来て、俊輔と向かい合ってごはんを食べるのが初めて。  その事実に、ほんと、びっくりだよねと思う……。  だって、もう結構経つのに。    だけど、実際こうなって面と向かい合ってると、いったい何を話せばいいんだか、何も、浮かばない。 「あんまり食欲ないか?」 「……動いてないからかも。あ、でも、食べるから」  辛うじて答えたきり、声が出ない。  ていうか。もう。  会話が……思い浮かばない。  西条さん、居てくれないかな……何か喋っててほしいよう……。  静かにただ食べているだけの時間を、過ごしていると。  しばらくして、俊輔がふう、と息をついた。 「……これ、すげえ強い」    言いながら、酒瓶のラベルを見ている。  俊輔は、すごくお酒強そうって思ってた。  たまに飲んでるの見かけたけど、全然赤くもならないし、酔ってる感じもしないし。西条さんは美味しい日本酒だと言って、小さめの瓶を2本、置いていったけど。グラスに注いで、一気飲みしたのをさっき見た。  熱い、とか言ってるの、珍しいような……まあそんなに熱いとか言う程は、赤くはなってないけど。  よく考えると俊輔って、朝早いし、帰ってくるの遅いし、最近は夜中もオレに合わせて起きたりなんかしてくれてたし、絶対寝不足だよね。……だからかな? ちょっと酔った? 「……お前の母親って、どんな人?」 「……」  不意に聞かれて、俊輔と視線を合わせた。  ……急な質問が、それなんだ。  何を話せばいいんだろう、と思いながら。 「……オメガだったよ」  そう言うと、俊輔はオレを見ながら、小さく頷いた。 「体調悪いことも多かったけど……優しかった」 「……似てるか?」 「目とかは少し似てたかな。母さんが死ぬ前に、初めて父さんが居るって教えられて……ずっと、亡くなったと思ってたから」 「……愛人、てことか?」 「うん。そうみたい。すごい大きな会社の社長さんだって」 「……だから一緒に暮らしてないのか」  その質問に、うん、と頷くと、少し沈黙。  何だか俊輔……やっぱり少し酔ってるのかな。  それとも……これからオレと、色々話してく、つもりなのかな……。 「……オレの、母親もオメガだった」 「…そう、なんだ」  頷きながら、箸を置いた。 「もういいのか?」  気づいた俊輔に聞かれる。 「うん。結構食べたよ」 「果物とか、食べるか?」 「……うん」  そんなに食べたくはなかったけど、要らないっていうのに気が引けて、なんとなく頷くと、スマホで多分西条さんに何か入れてる。 「……知ってるだろ、アルファの出生率が下がってるの」 「うん」  もともと少ないけど、二、三十年くらいの間にますます下がってるってニュースでやってるのは知ってる。 「アルファを産む確率が高いのがオメガって、言われてるのも知ってるか?」 「……そうなの?」 「本当か知らないが、アルファの中ではそう言われてる」  そうなんだ。  ……それは知らなかったかも。 「……だから、オレの母親は選ばれた」 「――――……」  ……選ばれた? 「アルファの子供が欲しいから、親父は、母さんと結婚した」 「……」  ……なんとも、言えない話に、俊輔をただ、見つめてしまう。 「……まあ。政略結婚みたいな見合い結婚も多かったらしいし。無い話じゃないとは思うけどな」 「…………」   何も言えないオレに、俊輔は苦笑した。 「……何とも言えないよな」 「…………」  少し俯いて、それから、小さく、頷く。  俊輔は、軽く頬杖をついて、それきり少し、黙ってる。    ……詳しく聞いて、いいんだろうか。  なんか微妙というか、デリケートな話で、なかなか、言葉が出てこない。

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