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6.「強いお酒」*真奈
俊輔は、視線をお酒のグラスに向けたまま、話を続ける。
「それでも、母さんは、親父に尽くしてたな。……まあ家的にも、親父のが上だし、もう、逆らうなんて考え自体なかったのかも」
「……」
「親父は、オレにもオメガと結婚しろって思ってるらしいけど」
ふ、と息をついて、お酒を飲む。
「……結婚とか、ごめんだな」
……ほんと、オレ、なんて言ったらいいのか、全然分からない。
オレの母さんは、父さんは亡くなったとずっと言ってたけど、会ってたみたいだし。何かの事情で結ばれはしなかったけど、愛し合ってたからなんだろうなと思ってる。
母さんが亡くなっても、オレの面倒を見てくれるっていうのも、余裕があるからっていうのもあるだろうけど、それなりに母さんに愛情があったからなんだろうなとも、思ってる。
……でも、俊輔のお父さんたちは、違う、のかな。
事情は分からないけれど、俊輔はきっと、そう思ってるんだろうなと感じる。
何か、言うべき……? でも何も言えない。
「……つか……何言ってんだ。オレ」
口元を押さえて、俊輔がそう言った。
「……忘れていいから」
そう言うと、またお酒を、グラスに注いだ。
「…………」
俊輔は、好きな人と、結婚出来ると良いね。
……と、口から、こぼれそうになったけど。
何か、オレが言うのも絶対変だと思うから、言えなかった。
どうしようかと、本気で思ってた時、西条さんが入ってきた。
「真奈さん、食べられましたか?」
「あ、はい。結構食べました」
そう答えて、ふと、自分で気づいた。
あ。……オレ、なんか今自然と笑って答えてるな……。
…………うう。なんで、俊輔とは、笑えないんだろう。
怖い、とは、今はもう、思ってないのに。
あの時は本当に怖くて、もう絶対無理だと思ってたけど、今は思ってない。
あの時のこと、口先だけじゃなくて、本当に悪かったと思ってくれていると思うし。
だから、次にもしオレが俊輔を怒らせても、きっとあんなことはしないかなと……なぜだか、今のオレはちゃんと信じている。
だから、怖くはない。
……なのに、普通に話せないし笑えない。
どうしたら、いいんだろ。これは、時間がたてば、できるようになるんだろうか。
「真奈さん、果物は、オレンジとチェリーでしたら、どちらが良いですか?」
「じゃあ……オレンジもらえますか?」
「切りますね、少しお待ちください」
言って、小さなボードの上で西条さんがオレンジを切るのを見守っていると。西条さんが、ふと、俊輔に視線を向けた。
「若?」
「……ん?」
「……少し、強かったですか?」
くす、と西条さんが笑う。
「……少しじゃなくないか、これ」
「……そうですね。かなり強いものかもしれません」
クスクス笑う西条さんは、オレにオレンジを渡してくれながら、そう言った。
「……は? 何、その笑い方。何企んでる?」
……ん??
俊輔の言葉が、謎過ぎて、オレは、オレンジをむき始めた手を止めてしまった。
……企んでる??
「人聞きが悪いですね、若」
西条さんは、そんな風に言いながらも、クスクス笑ってる。
……なんか。その笑い方を見てると、俊輔が何が言いたいのか、少しだけ分かるような気もした。何か思うところがあって、強い酒を、俊輔に渡したのかな、と。
なんとなく、俊輔の方を見ている西条さんを見つめてしまう。
「少しは素直になった方がいいんじゃないかと思いまして」
「――――……は?」
何だか、けだるげな俊輔は、少し視線をきつくして、西条さんを睨む。
「明日の朝は少しゆっくりですし。酔っても問題ないですよ」
「…………酔わねーし」
とか言ってるけど、なんか。
……けだるげな俊輔は、なんだか、少し。
……こんなこと言うと、変かもだけど。
なんか、ものすごく色気があって、少し、引いてしまう。
絶対、この人、酔ってるな……。
……素直にって。
……西条さんて……。
いい人だけど。……ちょっと、怖い……と思うのは、気のせい?
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